[携帯モード] [URL送信]

オレンジ信号機
1ー5
 すっかり同室者とも意気投合した東江。
親友へも第一段階クリアかも、と連絡をしようとした矢先の事だ。
教室移動で渡り廊下を歩いていると、向かいのドアから同級生が歩いてきた。
確か彼は、特待生である自分をさしおいて入学式に挨拶をしていた人物だ。
直接の会話などした事すらなかったが、どこか気に入らなかった。

「……っていうか、渡り廊下ってだけでもなんかやたら装飾凝ってるな」
「えっ」
「とか考えてそうだな、お前」
「普通に生きてたらこんな学校があるなんて思いもしないからね」
「三年もいりゃ嫌でも慣れる」

中等部から通っているから、そんな余裕ぶった言葉が言えるのだろうか。

「平凡で悪かったな」
「誰もそんな事言ってないぞ。自意識過剰、被害妄想」
初対面でずけずけとよく言う奴だ。
すっかり虫の居所が悪いを通り越して沸騰寸前となった東江は、さっさと通りすぎようと足を早める。

無駄に広いここでは、ぶつかる心配もない。
そう思った、瞬間の事だった。

「なに、すんだよ」
頭を一瞬だけ、本当に軽く触って、相手は一頃だけ言った。

「アイツには、気をつけろよ」
「アイツ?何の事だよ、っていうか、誰だよ」
「さぁな……オレはさしずめ、恋のライバルってとこか」

意味ありげに笑いながら、相手は何の気なしに前進していく。

「恋って……まさか!?」
反芻する東江に、相手は声だけで反応する。

「変な事言ってると授業遅れるぞ、特・待・生」
「余計なお世話だ!」

 それからと言うもの、何故かその人物は東江が一人のタイミングでしばしば遭遇した。

「よう、アブラゼミ特待生」
「僕には東江夏夫っていうちゃんとした名前があんだけど?」

東江も、相手をしないようにと思いつつもついつい返事をしてしまう。

「アガリエを二文字変えて、アブラエだろ?」
「だから何だって言うのさ」
「アブラ・夏。つまりアブラゼミって呼んでくださいって言ってるようなもんだろ」
「なんだよそのウチハラスメント」

数回の軽口を飛ばし合うようになり、嫌でも相手の名前がインプットされてしまった。
内原哲也。野球選手の名前みたいだね、と言ったら無言でチョップをされたのは、いつの事だったか。

「僕なんかに構ってないで教室戻れよ」
「お前こそ、仲良しの同室者サンに慰めて貰えばいいだろ」

そうは言っても、先に動いた方が負けのような気がしてしまうのだ。
だから夏夫と内原は、遭遇するとしばらくは二人だけの世界で口論するのだった。
もちろん、悪い意味で、だが。

 「遅かったね、どうかしたの?」
学食で待っていた小峰に軽く謝罪をすると、心配そうに眉を下げられる。

「ちょっと、やっかい事がね……」
「なんかよく分からないけど、大変だったんだ?」
しかし不思議と、あの時間が嫌いじゃないと思えてしまうのは、後で小峰が優しくしてくれるという事への期待のせいだろうか。

「うっちゃん、ありがとう」
「いーえー。どういたしまして」
うっちゃんが偽物なのかどうかはまだ不明瞭。
それでも癒しを、自分でも自覚してしまう程の好意を抱いている事は、確かだった。

[*前へ][次へ#]

5/10ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!