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オレンジ信号機
14
 手当てを済ませて仮眠室を出ると、保健医は証明書を発行して手渡してくれた。
軽くお礼を言うと、“友達んこだな”と笑われたので多少は苛ついたが。

 その日の夕食は、お互い気まずくて仕方がなかった。
東江は自分の内側を見せたのだから、今度はボクの番だろうか、と小峰は緊張する。
もしこれで駄目なら、もう打つ手はないのだが。

「朝さ、なっちゃんが教えてくれて、何だろう不謹慎かも知れないけど僕安心しちゃったよ」
「傷見てもひかないのなんてうっちゃんくらいかもね」
「そうかな?でもそれももう終わりだよ」

どういう意味、と顔を上げる東江に、小峰は意を決して机に手を乗せる。
一度している告白は、嘘だったからあんなにも簡単に言えたのだろうか。
それとも、内原に嫉妬していたから?
分かる事は、今言わなければいけないという事だけだった。

「二度と新しい傷が出来ないように、ボクがその手を持ってて、あげる……よ」
ぶわっと汗が押し寄せてくる気がして、ああ、自分が今顔を真っ赤にしているのだと嫌でも気づかされる。
目の前の東江は、そんな小峰の心境を知ってか知らずか、少しだけ微笑んで返事をする。

「それって、あの守るって約束の事?それなら−」
「っ違う、キミの事好きだからだよ」

やった!言えた!弦選手10点満点です!!
頭の中で架空の審査員と実況がワイワイワワワイと盛り上がっていくがそんな事は関係ない。
一瞬でにわかに目を見開き顔を赤らめた同室者に、視線の全てが注がれる。

「す、好きって、何、僕またからかわれてる……?」
「全然。でも信じて貰えないっていうなら……ボクの事を絶対選ばせてみせるよ」

耳が心臓になったのかと錯覚するくらい、鼓動がうるさくて仕方がない。
東江の色素の薄目の茶髪は、赤い顔に良く映えている。

「もう選んではいる、んだけど」
「えっ」
「そっか、なら僕もうっちゃんの事まもらなきゃだね」
「ええ……?」

一人でに納得して東江は頷くと、何かを言おうとして口を開く。
−が、しかし、その瞬間。その空気を切り裂いていくかのように、インターホンの音が響いた。

「あ、僕出るね」
立ち上がった東江は、真っ直ぐ玄関へと足を伸ばす。
ドアのスコープを覗いて、「ヨースケ」とその口が動くのを見て、小峰は走った。

(そんな顔を、あいつに見せるなんて許さない)
ドアノブに掛けられた東江の手に、自らの手を多い被せてそっと剥がす。
驚きに振り向いた彼に、「しー」と人差し指を立てて見せると、耳元で囁いた。

「副会長とも約束、しちゃったから」
「あ、そ、そっか……」

でも居留守はよくないだとかもごもごと口にしようとする東江に、小峰は少し舌打ちをしたくもなる。
確かに副会長の件は思い出したから言っただけだが、それとこれとは話が別だ。

こちらは大事な話をしているのだ。
腐れ縁の幼なじみよりも、優先してくれたっていいじゃないか。

「って言うかさ、この状態で放置されるの、ボクもだけどなっちゃんも辛くない……?」
再び耳元で囁くと、東江は観念したように玄関に座り込んだ。

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