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オレンジ信号機
12
 その異変に、同室者として一日の大半を共に過ごす小峰が気づかない筈がなかった。
感じた違和感は数えて3つ。
まず1つめは、東江の起床時間が今までよりも一時間速まった事だ。

「あのさ、しばらく朝食購買で買うから」
「しばらくって、いつまで?」
「うーん、分かんないやごめん。もう行かなきゃ」

取り付くしまもなく鞄を持って東江は部屋を出ていこうとする。
その腕を掴もうとすると、すんでの所で一歩避けられてしまう。
そこまで近づいて、小峰は二つ目の違和感を覚える。

「湿布の臭いだ」
「へぇ、そ、そうかな。ちょっと腕疲れたから昨日張ってたから、そのせい、かも……?」

わざとらしく首を傾げて東江はなおいっそう急いで外へ出たいという仕草をする。
ボクも一緒に行くと言おうとした小峰に東江は、はっきりと首を振った。

「僕は一人でも大丈夫」

それは一体何に対してだというのか。
自分に言い聞かせるように呟くその姿がやけに気になって、小峰はひっそりと後を着ける事にした。
仲直りをする前、東江が小峰にそうしてきたように。

 (平井君の部屋に行ってるのかと思ったけど、違うみたいだね)
東江は周りを見渡しながら、隠れる寮の門をくぐっていく。
始業時間まではまだ二時間以上もあるせいか、部活の朝練もほとんどいない。

「ハンドボール部だってもう四〇分しないとやらないし……」

では彼は、何に急いでいるというのか。
そうしてたどり着いた先は、旧校舎の裏だった。
投げやりに整理され、所々に枯れ草の影が見える暗い場所に、待ち人がいる。

「遅かったじゃないですか」
「別にこなくてもいいのに来てあげてるんですけど」

目の前のお下げ姿の生徒に東江がわざとらしく挑発をすると、後ろに回り込んだ別の生徒が蹴り倒す。

「約束したのは貴方じゃないですか。洋介と哲也と近づく代わりに−毎日制裁を受け入れると」

待て。今井上は何を言ったのだ。
小峰は壁伝いに握っていた拳を開いて自分がいかに困惑しているかを実感する。
じっとりとかいた汗が、現実だと訴えかけてくる。
そうこうしている内に彼は暴力の許に晒されていく。

(頼るねって、言ってくれたし)
彼からはまだ何も教えて貰えていないが、この状況を打破出来るのは自分だけだと思った。

「ねぇそれ、なっちゃんがアイツらと会わなきゃいいんじゃないの?」
「ゲン君、久しぶりですね」
「副会長、質問に答えて」
「可能であれば私だってこんな事しないんですけどね」
ね、と言い切りながら、足下に座り込む東江の太股を踏みつける。
脂汗を額に滲ませながら、東江は目を瞑って耐えているようだ。

「ボクが会わせないようにする。近づいてたら引き離す。それで取りあえず解放してくれない?」
「それで納得するとでも?」
「しないだろうねぇ。だから取りあえずの間だけでいいよ」

納得してくれないのは東江も同じ事だろうから。
そう含ませながらそう言うと、井上はようやく引き下がる。
まだ周りの親衛隊達は釈然としていない様子だったが、知った事かと東江の手を取って駆けだした。

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あきゅろす。
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