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オレンジ信号機
10
 眼中にないのなら、次なる作戦を企てればいいだけの話。
小峰は続いて、『あの手この手作戦』と銘打った行動を開始した。

「なっちゃん、ハンドボール部の見学いつ来る?」
「そうだなー水曜はどうかな、授業1マス分少ないから部活も時間長いんじゃない?」

とにかく、彼の時間を、独占する。
自分を優先して貰えるように選択肢を減らす。
つい先日も同じような行動を取っていたような気もするが、今度とは意味が全く違うのだ。片時だって油断ならないと思った。

「いいなー俺も行ってみたい!」
「あー……今回は一人分しか顧問に聞いてないから、平井君は今度になっちゃうかも」
「おし、了解〜」

やはり教室にいる間は、親友という壁が行く手を阻まんとしてくる。
やれ小峰が昼食に誘えば一緒に行きたいとわめき、夕食を作っていれば「食後に遊びに来い」と誘ってくる。
後者は小峰も悪い気がしないので、お言葉に甘える事も多いのだが。

「最近弦と夏夫やけに一緒な事多くないか?」
「そお?ボクからしてみれば、平井君も生徒会の皆さんとかなり仲良く見えるけどね」

お互いに嫌味をたっぷりこめて牽制するのも、ある意味日常の一つだ。
彼の立場からしてみれば、親友が毒牙にかけられないように心配なのかも知れないが。

「ヨースケはいつも賑やかだから、僕もちょっと羨ましいよ」
気づいていないのは、当事者ただ一人だけなのだ。
その親友への絶対的信頼が。揺らぐ事のない居場所が。小峰にとっては何よりも羨ましいと言うのに。

 (平井君は安心して委ねてくれていいよ。なっちゃんくらいなら幸せにしてあげる自信あるし)
本人に告げるつもりなど今後一切ないだろうが、それでもと小峰は一人言ちる。

自動販売機でサイダーでも買おうかと自動販売機まで行くと、奇遇な事にも内原に遭遇する。

「ゲン元気してるかーなんてな」
「喧嘩売ってる?」
「おーおーいつもの威勢はどうしたよ」

この人間はいつでも誰に対しても自然体で接する。だからどんな人でも好感を覚えるし、自分は特別に親しくなれたような気にさせられるのだ。

「ボクが何回騙された事か!」
「この善良な一般ピープルを捕まえて何を言う」
「ハイ先生一般人は生徒会になんて選ばれませーん」
「オイ努力しろよ」
「やだやだ話してるだけで時間の無駄だ。もうなっちゃんもなんでこんな奴の事……」
「アイツな、面白いよな」
「内原に語る資格がある?隠してたのはそっちも同じなのに?」
「まぁな。俺は恋のライバルだからな」

何の事かと聞き返そうとすれば、もうそこには人一人もいない寂しい影があるだけ。
小峰は自動販売機に適当に小銭を入れて、怒りに任せてボタンを押した。
冷たいポタージュが下まで落ちてくる。

守られているようなか弱い存在でもないような気はするが、東江はやはり自分がどうにか守らなければ。

(その為にはまずはプランBに入ろう……)

自らの預かり知らぬ所でよもやそんな決意をされていようとは、東江は思いもしないのだった。

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あきゅろす。
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