オレンジ信号機
1ー4
なんという偶然だろうか。
こんな簡単に叶ってしまうなんて−そんな事、本当にあり得る筈がない。
「何かのドッキリ?」
「幼なじみを疑う事が必要あるのかな」
人の揚げ足をとるような少しずるい話し方で、相手はこちらへ歩み寄ってくる。
「改めて、同室者の小峰です。よろしくね?」
「やっぱりうっちゃんじゃない……」
「なんで!どこが変だった?」
どこがと聞かれれば、全部だと東江は思った。まず名前に一部とも“うっちゃん”に繋がる要素がないし、そもそも彼は活発だったのだ。
目の前の小峰というその人は、まるで正反対のようで、どちらかと言えば肌は白い方だった。
「……ああ、うっちゃんってアダ名の事」
東江が無言で肯定すると、小峰はわかる、とでも言うかのように頷き返してきた。
「ボク、なっちゃんに会うよりずっと前は最初凄い内気だったんだよね、子供って変な所からニックネームひねり出すでしょ?」
「そういえば、そんな事を言っていたような……ないような……」
多分ない。
だが、本人があまりにも自信満々に宣言するもので、東江はついつい納得しかけてしまった。
「他には?なっちゃんが分かってくれるまでいくらでも付き合うよ」
つもる話もあるしね。
そう言って笑う姿は、随分と大人びみて見えて。
記憶の中の爽やかな少年とはまた違った意味合いで魅力的だった。
(うっちゃんは、僕の知らない間に成長してたんだ)
それが、寂しいような、これから教えて貰える事への期待のような。
複雑な心境を織り交ぜながら、東江は結論を出す。
同室者の事をうっちゃんかどうか判断するのは、まだ『保留』にする事に。
同室者とは言え、クラスはさすがに別れるようで。
様々な生徒とふれ合い己を磨けという校風らしい。
お昼休みに学食へ誘われた東江は、小峰と廊下を歩きながら雑談に興じた。
「なっちゃんは、辛いもの食べられるようになった?」
「あんまり、コショウのピリっとしたのが好きになれそうってくらいかな」
まさか自分の食の好みを覚えているとは。
関心をしつつ、こちらも何か聞こうと東江も続ける。
「うっちゃんは何でも食べれるんだもんね、羨ましかったな」
「そうそう!いっぱい美味しいって食べてたらこんなに背がノびちゃって」
わざとらしく自身と東江の身長差を手で表しながら、小峰は苦笑いする。
かつての記憶の中でも、うっちゃんは少し背が高かったが。
だが今では、その差は13cmはゆうに越えていそうな程、彼は背が伸びていた。
「僕が小さい訳では決してなく」
「何か言った?」
「ううん何でも!ご飯楽しみだね」
そうか。好き嫌いなく何でもいっぱい食べられる人が背が高くなる条件だったのか。
東江はその日、無謀にも激辛カレーラーメンに挑戦し、あっけなく惨敗するハプニングを公衆に晒す事になる。
その中の一人が、ふと立ち止まってその様子を観察していた。
「まさか……本当に入学してたとはな」
ふ、と口元だけを歪ませ、その人物は背を向け去っていく。
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