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オレンジ信号機

 あんなに避け続け、かつ顔を会わせたくないとすら感じていたというのに、いざ引かれてしまえば駆け引きのように小峰は焦った。
心の中で言い訳を繰り返す。

“せっかく同室になれたんだから仲良くしておきたいし?”
“たかが一言で元気なくなるとか簡単すぎるでしょ”
“だからこれからの生活の事を考えて、仲直りしておいた方が無難だよねって話で”
されど一言ではあるが、何とかしなければならないのは確かである。
とどのつまり、今度は小峰が東江を追いかける番になるのだった。

 お昼ご飯には積極的に誘い、休み時間には勉強を教わりに行き平井に牽制されたり、廊下で内原と話している所を引き離したり。

「なんかうっちゃん、再会したばっかの時みたいで面白い」
とようやく東江が素直な表情を見せてくれるようになって、小峰はようやく一呼吸つける気がした。
そうして、ふとあの時の一言を謝ると
「事実だし、本当僕の方こそ……」
とお互いに謝罪合戦になってしまう事が判明したので、この話は一度白紙に戻される事となった。
いくら言い訳を積み重ねようと、結局のところ小峰と東江は相性が良いのだ。
だからこそ、二人ともこの距離間を気に入っていたし、出来るだけ壊したくないとぎこちなく気を遣いあっている節もあった。
そんな矢先の事だった。

 「ねぇ、たまには一緒に大浴場行ってみない?」
前に東江に勧めた所、好評であった事を小峰は覚えていた。
ゆったりくつろぎ羽を広げられる憩いのスペース。
そこならもう少し話も弾むのではないか、と軽い気持ちで誘ったのだが。

「僕は、また今度にしようかなって」
つむじを掻くような仕草で、目をそらして東江はそう応える。
「今日都合悪かった?」
「あ、いやそういうんじゃないけど……うん、ちょっと色々あって」

言葉を濁しつつ東江は、さて明日の予習をしなければと共有スペースをでていこうとする。

「はぐらかさないで。どうしたの?」
その腕をそっと掴むと、まるで緊張しているかのように冷えきっていた。
「今はまだ話せないんだ、ごめん」
東江はその腕から逃げようと身じろぎをする。小峰は力を抜いて解放してやる事にした。

「じゃあ話を変えようか。ねぇなっちゃんはもう初恋の人はいいの?」
しかし、それだけでは釈然としないので、小峰は一つ爆弾を投じる。

「へぇ!?えっな、なんで、僕、僕誰にも話してないはず……えっ!?」
顔を真っ赤に昇らせて、東江は凝固する。
“自分がうっちゃんだ”と自己紹介した時、あんなにも嬉しそうに笑っていた癖に、気づかれていない方がおかしい、と小峰は思った。

「カマかけてみただけなんだけど、本当にそうだったんだ……」
「わー違う!今のナシ!ナシナシ!」
「残念、もう聞いちゃったよ」

慌てる東江の表情は赤くなったり白くなったりと切り替わりが激しく見ていて退屈しない。
その一方で、本当に“うっちゃん”に会いに進学していたとう事実を裏付けられてしまい、残念な気持ちが小峰の中に芽生えていた。

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