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オレンジ信号機

 小峰の期待を裏切らず、東江夏夫の目的は“うっちゃん”に会う事だった。
そして小峰は内原も東江と連絡を取りたがっていた事を知っていた。それでも今日までそうしてこなかったのが内原の運の尽きなのだ。

(だからボクが代わりになってあげたんだ)

騙している自覚はあったが、それ以上に優越感の方が強く。
何故気がつかないのだという疑念と、打ち明けて終わりにしたいという罪悪感とが相反して小峰の心に居座っていた。
だからこそあの時、全てを明かした時の東江の表情と言ったら……小峰は存外この三〇四号室の居心地の良さを気に入っていたのだと痛感するのであった。
自分で作り上げて自分で壊したのだから、誰にも文句は言われないだろうが。

 「うっちゃん、お昼一緒に食べよう」
終業のチャイムと共に小峰の教室へといそいそ現れたのは東江だった。
今までは自分から会いに行っていて、それもしばらく止めていた所だったのだ。
何だか不思議な光景だなと思いながらも小峰は「行かないよ」と呟いた。

「なんで?こないだまで一緒に食べてたのに」
「いやだからアレは……まぁもう食堂ついちゃったからいいけど」

ぐだぐだと話していれば長い廊下も気にならなくなる程あっと言う間に到着してしまう。
ロールキャベツのホワイトソースがオススメとして看板にでていたので、適当に2つ注文して東江を席に座らる事にする。

 「そういえば、なんで昔は僕の事“ナツ君”って呼んでたの?」
フォークを器用に突き刺して、東江は何ともなしにそう尋ねてくる。
それを言うなら君もそうじゃないかと返そうとも思った。しかし、水を一口飲み込んで答えを与えた。
正直な話、東江の反応が気になったのだ。

「みんなが呼んでいるからって、ボクが呼んでいい理由にはならないでしょ?」
「どういう事?」
「んーと、例えばボクらの共通の知人−内原が、仲間内で遊べるようにっておもちゃを持ってきたとするじゃない?」

東江は想像を膨らませるかのように、頷きながら目線を上へと動かす。

「みんなワーイって遊ぶけど、その中にボクが入ってないんじゃないかなって、そう思っちゃうんだよ」
「なんかそれ、悲しいな……」
「そうかな?でも結果的にはボク一人だけが呼んでるアダ名になってたから良かったけどね」

(まぁなっちゃんって呼びたかったのも事実だけど……それでも)
今目の前にいる相手が存外満更でもない様子ではにかむものだから、小峰もそれ以上は言わないつもりだった。
これなら再会した頃の自分を取り戻せそうだと安心しかけたその時だ。

「確かにそうかも、僕もゲン君にだけ“ナツ君”って呼ばれてたの、特別っぽくて好きだったんだ」
「……は、何それ。忘れてた癖に」

言う気など一切なかった筈なのに。
不意に口をついてしまったのはそんな意地の悪い一言で。

「そうだね、調子の良いこと言って……ごめん」
すっかり暗くなってしまった表情からは、せっかく縮まった距離がまた離れていくような感覚しかなく。
「別に謝らないでいいけど」
小峰にはそれを挽回する術が見つからなかった。

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