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オレンジ信号機

 何だか最近ままならない。
それもこれも東江のペースに振り回されているせいだ。
そもそもこんな事になったのは、どこの選択肢を選び損ねたせいなのか。
小峰は自室のベッドに横たわり一人思案する。

 近隣に住む年の近い少年少女が集まって、ただ毎日あてどなく好き勝手に遊んで。
ガキ大将のような内原をみんな慕っていたし、中でも小学校にあがる前に現れた夏夫は、本当に限られた時間の仲ではあったものの、皆の記憶に鮮烈に残っていた。
特に、内原には。

「ねぇうっちゃん、ハンドボールおしえてよ!」
「あー……またあしたな」
「うっちゃんウノやろうウノー!」
「ちょっときょうはきぶんじゃねー」
あまりの気落ちぶりに、周りの子供達は一人また一人と離れていく。
そんな時、内原に手をさしのべる者達がいた。

先に学園の初等部に通っていた、内原の知り合いのお兄さん達−今の高等部の生徒会役員だ。
彼らは内原に外の世界を見せる事で説得し、内原の両親を納得させ、小学校受験をさせる事にした。
元々カリスマ性のある方だったせいか、かなり優秀な成績で合格したそうで、発表時、やけに興奮した様子で小峰や仁神に見せて笑っていた。

そんな時、小峰が思った事は、“うっちゃんもボクを置いていくのか”だった。

友人の晴れやかな門出を祝う事が出来なかったのは、夏夫との別れが不完全燃焼だった事に起因する。

 ある日の朝の事、いつも通り公園に集まったメンバーの中に、見知った茶髪の少年はいなくて。
皆何故か嫌な予感を共有したまま、遅れてやってきた内原に詰め寄ったのだ。

そうして返ってきた答えは、「なっちゃんはもうここにはこない」の一言だったのだ。
幼い心には、何も告げずに去っていってしまう事は悲しみ以外の何も生み出さなかった。

どうしてうっちゃんにだけ話したの。
どうしてボクには何もないの。
昨日だって、一緒にハンドボールのディフェンスの話をしたじゃないか。

そうして幼い弦少年が導き出した答えは、内原を恨む事だったのだ。
他人が聞けば逆恨みじゃないかと憤るような事かも知れない。
それでもそれを選ばなければ小峰は、このやり場のない気持ちをどうする事も出来なかったのだ。

「それから死にもの狂いで勉強して、中学受験して、受かった時は嬉しかったな」
内原の事など吹っ切れたと、自分自身でも思えそうだった。
会えば憎まれ口を叩きながらも、そうして3年が過ぎようとした、その時だった。

「−ここが、科学室とその準備室です」
「おお、僕理数系好きなんでこういう教室の雰囲気凄く好きなんです」
「良かったね」

教師に連れられて、廊下をあるく茶髪が目に入った。
穏やかそうなたれ目の、特に特徴のない顔は、それでも記憶の中と一致している。

「僕絶対この学校に合格したいんです」
「へぇ、なんで?」

うっとりと細められる夏夫の目を見ていたら、気が違いそうだ。
理由なんて聞かなくても分かる。
彼は“うっちゃん”に会いに来たのだ。

「先回りしなきゃ、ボクは今度こそあいつに勝たなきゃ」
ぶつぶつ呟きながら、小峰は再び選択する。それが全ての始まりに過ぎないと知らず。


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あきゅろす。
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