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オレンジ信号機

 「−じゃあ今日の練習はここまで。各自着替え終わったらミーティングやるから1−Bの教室集合してください」

ボールを片づけながら小峰がそう告げると、いつもの流れの通りハンドボール部の部員達は体育館を後にする。
震える手を誰にも気づかれていないと一安心して倉庫の鍵をしめると、自然にため息が出てしまった。

(……なっちゃん、大丈夫かな)
部活に入る直前の事、同室者に詰め寄る生徒の集団を見かけた。
あれは記憶に間違いがなければ、自分の幼なじみを慕っている者ではないか。

−生徒会に近づくものには制裁を。

そんな事は分かりきっていた事だったが、それにしても行動が早すぎる、と小峰は焦った。このままでは危険すぎる。

 「ちょっ、っと、平井君居ますか!?」
慌てて廊下を突き進んだものだから、やけに視線が痛々しかった。それでもと駆け込んだ教室内に、彼の姿があった。
東江の自称一番の親友である、平井洋介だ。
信頼も高く、そして自分の言う事も信じてくれるに違いない彼ならば、東江をきっと危険な目には遭わせまい。

(自分じゃなくても、助かるなら何でもいい)
心の内には蓋をして、小峰は平井にSOSを出した。
「夏夫が!?なんだって急がねぇと!」

最初こそ半信半疑だったが、小峰の真に迫った態度が気になったのか、平井も立ち上がる。

「じゃあ、弦、今すぐ案内してくれ!」
「いや、場所なら教えるから−」
顔を合わせるのは、今はまだ出来ないと思った。だからこそ、部活があるから何だかんだと言い訳を重ねて平井に押しつけたのだ。

 その後、東江が保険医に連れられるようにして部屋に帰って来るのを壁に耳を当てて聴いていたが、しばらくして小さな寝息が響くようになると、小峰もようやく肩の荷が降りたような気がした。
 だからこの件に関しては、自分はもう完全に担当を外れた、と思っていた小峰だったが。

 「……何かがおかしい」
と独り言を呟きたくなるような日常の変化があった。
些細な事かも知れないが、東江夏夫が通常登校へと復帰した翌々日頃から、妙な視線を感じるのだ。
ーまさか親衛隊がボクに逆恨みを?
平井に密告した事が、どこかから漏れたとでも言うのだろうか。
詳しくは知らないが、内原も助けに加わっていたとかいないとか。
自分が迷惑をかけた訳ではないが、内原に貸しを作ったような気持ちになるのは頂けない。

「……あのさ」
一歩。歩くと背後の足音も一音ずれて一歩。
少し急ぎ足で進むと、びっくりしたようについてくる。
これではまるで探偵に尾行されている様ではないか。否、もっと正しい表現をするならば、まさしくストーカーと言うべきではないか。

「いい加減しないと出るとこ出るよ」
「えっ、あ、その……ごめん」
一歩踏み出すフリをして、一気に振り向く。すると、小峰ですら想像だにしていなかった人物が、お手上げといったポーズで立っていた。

「そんな所で何してんの、なっちゃん」
「うっちゃん、と……話がしたくて」

Route1 信号無視しないで

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