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オレンジ信号機
1ー3
 秘密の共有というものは、人と人との距離を格段に縮めていく。
それが何か一つの物を作り上げる事であれば、尚更。

「ナツくんは、うっちゃんとなかいいんだね」
「そ、そうかな……そうみえる?」

幼なじみとなった友達のなかの一人が、ある日突然そう尋ねてきた。

夏夫に対しうん、と頷いた眼前の少年は、
『なんかへんなかんじ』と感想を述べた。

そうなのだ。

本来中心的にみんなをひっぱるガキ大将のような“うっちゃん”。
そんな彼に、新参者がひっついているのだから。
金魚のフンはあまりいい印象にならないという事か。
頭では理解をしているつもりだったが、夏夫はショックを受けずにはいられなかった。

「でもぼくにはじかんがないから」
おかしいと思われていても、どうせもうすぐお別れなのだ。
秘密基地が完成するまで。
誰に請うわけでもないが、残された、たった数日間の初恋を、どうか許してほしかった。

 秘密基地を完成させたあの日以降、手紙の一つすらやりとりをしていなかった相手。

それどころか彼の他の誰にも別れを告げていなかったのだ。
こんなにあっさりしたいなくなり様は、嫌われたって仕方がないと思えた。

そんなあやふやな存在であるはずなのに。
どうしてここまで終着できるのか、夏夫は自分でも分からなかった。

小学校時代からの親友−平井洋介は、そんな夏夫を『病気だ』とよく評価した。

「こんな身近に腐れ縁の優良物件がいてもピクリともしないなんて病気だろ」
平井は、自覚のあるイケメンで、しかし面倒な冗談をよくいう人物だった。

−病気か。それもあるかもね、と夏夫は一人自嘲する。
(だって人はよく、恋患いって言うし)

「うっちゃん、今何してんだろうな」
「中学から全寮制の学校言ってるみたい」
「ヨースケなんで知ってるの!?」

口では馬鹿にしつつも、親友は意外と応援してくれていたらしい。

「ヒライの情報量なめんなよ」
「すごい……よく分からないけどすごい気がする!」

あくまでらしい、というだけなのだが。
それでも根拠がありそうな親友の助けに、夏夫の行動は早かった。
進路を完全に視野に入れ勤勉に励み、折り合いの悪い家族を『全寮制』というワードで説得した。
それでも普通に入試で合格できる確率は極端に低かった。
だから、合格−しかも特待生と決まった時は、滑り止めの高校に一緒に行く気だった親友もさすがに舌打ちをしていた。

 そうして、たどり着いたのが各業界のエリート御曹司や令息・将来を約束された者が揃った学園で。
平々凡々を歩いてきた自分がくるのはおおよそ場違いである。
(後でヨースケにメールで慰めて貰おう)
そんな事を思いながら、夏夫は自分の部屋となる三〇四号室のドアを開けた。

「ずっと待ってたよ」

開けた勢いをそのままに、見知らぬ人物−恐らく同室者に抱き寄せられる。

「ちょっ……え、誰、何!?」
混乱する夏夫からそっと離れて、相手はやんわりと目を細めて笑う。

「何年ぶりかな……なっちゃん」
自分をそう優しく呼ぶのは、彼しかいなかった筈。
驚きに目を見開く夏夫に、“うっちゃん”は手をさしのべてくるのだった。

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