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オレンジ信号機
4−4
 髪の毛が切られるくらいで澄むなら、それで噂とか広がらなければ最高なんだけど。
そう思った、その瞬間だった。

「何やってんだよ!お前等!!」
突然、左側のドアが乱雑に開かれて、随分と慌てた様子の人物が入ってきた。さらりと揺れる金髪は、久しく見ていなかった親友の地毛だ。

「よーすけ……」
それがあまりにも眩しいから、だからちょっと目が眩んだだけ。
そう言い訳をして、東江はぽつりと一滴涙をこぼす。

「もう俺が来たから安心安心。怖〜い親衛隊はいないぜ」
「あ、ちょっと待って、今僕の首らへん見ないで」

おそらくはシャツの襟元まで全開になってしまっているだろうから。
そのつもりで言ったのだが、目の前の平井は一瞬だけ無表情になって、
「知ってるから大丈夫」
とだけ呟くとまたすぐいつもの表情へと戻った。
顔だけはこちらに向けた状態で東江の腕の拘束を解いてくれるのだから妙に手慣れている。これでは何も言えないではないか。

背後では、後から駆けつけた風紀委員などがその場を占拠していく。

「オイそこの!今出てけば逃げ得とか思ってんじゃねぇだろうな!」
「そうだよー哲也はこう見えて全校生徒の顔と名前覚えてるんだから!」

その中には、何故か内原もいたようだ。疲れているのにかり出されて可哀想に。そう思っていたら、ふと目があった。

「……シュヴァリエ、無事だったのか」
「リエしか、合ってないしっ」
「それだけ返せるんなら、もう元気だな」

ふ、とあまりにも苦しそうに笑うものだから。こちらまで痛ましくなってしまいそうになる。否、実際苦しかったのが、それでも内原は相当なものだ。

「自分のせいとか思ってるんだろうな」
「なぁに言ってんだ平凡のくせに」

あ、頭の中で考えている事がそのまま出てしまった。
訂正しようとすると、内原の手がそのまま伸びてくる−が、それが触れるかどうかの数ミリの段階で、平井が制してきた。

「哲也、あっち手伝って」
「……ったく、重労働を連続させるなよっての」
内原は少しだけ残念そうに、しかしどこか安心した様子でその場から離れていく。親衛隊や副会長も連れていかれ、平井と二人だけにされてしまう。

「……助けてくれて、ありがとう。僕あんな事言ったのに……ごめん」
気まずさのあまり平井の目を見る事もままならない。
その反面、飄々とした声色で返事がくる。

「あんなの本心じゃねぇって俺わかってしぃ〜?親友なめんなよなっての」
「うん、そうだね。でもなんで此処って分かったの?」
東江の当然の疑問に、平井は言葉に詰まったように押し黙る。
罰の悪そうな態度に、東江が首を傾げたくなった。

「弦が連れてかれる夏夫を見かけたって慌てて来たんだよ。哲也と俺の所に」
「うっちゃん……が、どうして僕の事を?」
「俺に聞かれてもな、でも、すっげぇ深刻そうだったぞ」

果たしてここで呼ぶのはうっちゃんで良いのだろうか。
変な疑問を抱きつつも、東江は再度質問をする。
何故なら此処に、その人物−小峰弦は来ていなかったのだから。


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