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オレンジ信号機
4−3
 顔面で受け身が取れたらいいのに。
そんな事を思っていても目の前の複数人は留まる事なく。
平常な思考など保っていられなくなるに決まっていると東江は一人ため息をついた。

「随分と余裕だね、生意気」
「ぅぐ、いッ」

頬骨が軋む頭を踏みつけられて、一瞬で現実へと連れ戻される。
目線を揺らして確認してみれば、いつの間にか一番に攻撃している人物が別の親衛隊になっていたらしい。
副会長はと言えば後ろで高見の見物をしていた。

「こんな髪してるから余計うざく見えるんだ、よっ」
「やめて」

髪の毛を掴み上まで引きずり上げられて、思わずついてでた一言だった。
しかしたったその三文字だけで何かを悟られてしまったらしい。
それで止めて貰えるならばいくらでも言っただろう。この場合は逆効果でしかないのだが。
その華奢な体躯のどこにそんな力があるというのか、東江を髪の毛だけで上へ向かせると、目の前の少年は目を見開いた。

「……ねぇ、この平凡、なんか首筋に−」
「見、ない、でッ」

咳混じり首を振るも、髪の毛がいくつか離れていくだけでまるで効果がない。
髪の毛が上で一つに束ねられたせいで、うなじが全て晒されている。
普段晒される事のないそこに、普通に暮らしていれば見る事のないであろう痕がついている事も。

「何これ、掻き毟った痕みたいな……」
「うわっもしかしてこれ自分でつけたんじゃない!?」
「あり得ない!こんな気持ち悪い奴が生徒会の皆様に近づくなんて!」

より一層強まった怒号に、東江は再び目を閉じる。
(隠して生きていけるって方がおかしいんだろうけど……)

 忌々しい程に東江を苦しませ続けるこの痕跡は。
夏夫を祖母の家に預ける理由になった−“家族”が与えてくれた物だった。
元々両親は女の子が欲しいと考えていたらしい。いわゆる一姫二太郎信仰の強い地域だったせいもあるだろうが、それでも夏夫はあまり歓迎はされていなかった。
否、正しい言い方をするのであれば、虐待一歩手前まではいっていたかも知れない。

幼稚園の送り迎えは近所の叔母様。家に入ればテーブルの上には300円が置いてある。

食事はまともに出る事など数える程もない。
物心つく以前からそうだったのである。だからこそ夏夫は、“家族とはそういうもの”と考えるようになっていた。

そうして、両親は次に期待する事にして、夏夫を遠くへおいやったのだ。
しかして結果は今度も男児だったのだが、それでも今度は両親によく似て整った顔立ちだったらしい。
そうして、一姫にならなったのは夏夫のせいだ、と両親は結論を出した。

(いつの頃からか、嫌な事があったら首に蛆が這っている感覚が止まらなくなったんだ)
実際軽く殴られる事と“これ”以外は普通の家族なのだ。
東江の中だけの見解の上、あくまで他人から見て表面上は仲良くしている演技をしているだけ、という事だが。
シャキン、という音が耳元に響いて、意識を浮上させる。
また伸びるまでハイネックを着ないと、と割り切ったふりを頭の中でしなければ、もう限界だと思った。

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