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オレンジ信号機
4−2
 それは幼い頃の話。
友人達と集まっている時、木登りをしようという話題になった事があった。
世話になっていた祖母宅は平屋で、あまり高い所へ登った事のない夏夫は興味半分恐怖半分に話を聞いていた。

「もしおちたら、あぶなくない……?」
「だいじょうぶ、なっちゃんにはおれがついてるよ」

うっちゃんのその言葉に、のどに刺さっていた小骨がとれた気がして。
大人の腕ほどの太さのその枝を掴み、夏夫は高みを目指す事にする。

「なっちゃん、ローペースで!」
「きをつけて!」
下からわいわいとした声が聞こえてくるが、無心になって手を上へと伸ばす。
−だがしかし、足があと一歩上げられず、驚きのあまり手を離してしまった。

「なっちゃん!」

うっちゃんは走るが間に合わない。
夏夫は地面に尻餅をつく形で着地した。

「けがはない!?いたみは?」
「……うん、なんともないよ」

あまりにも皆が慌てるものだから。夏夫は相応の覚悟をして衝撃を待っていたのだが。
うっちゃんとの温度差に逆に冷静になってしまう程に、夏夫の中では(なぁんだ)という感想しかなかった。

 それの光景を今、何故回想しているか。
それは一重に、副会長の長い弁論を聞くところから始まる。

「私はずっと貴方が苦手でした。よそから突然現れて、当然のように友人面をして。誰もが欲しい物をすでに持っているのに、持っていないもっとくれと欲しがる。ねぇ、洋介だってそうですよ。何年もつきまとわれて迷惑してたんです。分かりますか?私にとって貴方は邪魔なんです。だから私が、この手で処罰してあげようって思ったんです。ねぇ、貴方は叩かれた事なんてないでしょう?きっとこれが初めてになるでしょうね……ふふ、先ほどのように痛みに燃える姿、ちゃあんと見ていてあげますからね……」

言い切るや否や、顔を無理矢理上向きにさせられ、顔に一発。
腕は後ろで一つにまとめられているせいで、まともに食らってしまった。

「……おや、ポーカーフェイスですか面白くない」
「さっきのは不意打ちだったから」

くると覚悟した上でくる痛みなんて全然。
(あんなのに比べたら何て事ない。耐えられるよ)
叩かれた事などないだなんて、誰が一体言い触らしたのだろうか?そんなデマ。

さっさと終わればいいと思いながら、東江は投げやりな態度で目を閉じる。
その姿は、さながら白旗をあげる猿のようで、逆に相手の神経を逆撫でする事に繋がるとは気づいていない。

「あくまで無抵抗を貫くという事ですか……」
「だから早く進めて下さい」
「わかりました。貴方がこの地べたに這い蹲って謝罪しか言わなくなるまで、ぎったんぎったんにしてやる」

副会長、敬語取れていますよ。
挑発するように東江が顔を背けると、井上は東江を縛り付けた椅子を蹴飛ばす。
受け身も取れないまま壁に激突し、頭の中まで揺さぶられているかのようだ。

(こんな所、彼には絶対に見せられないな)
真っ暗な視界の中で、唯一の存在であるその人を想う。
きっと今頃は、何も知らずに普通に過ごしている事だろう。それでいいと思った。

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あきゅろす。
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