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オレンジ信号機
4−1
 東江にとっては接触する事もなくほとんど空気だが一番人気の生徒会役員はやはり会長であったりする。
抱かれたい抱きたいランキングという学園の未来が心配になりそうなものの集計結果と成績を照らし会わせ、教師全員の承認をもってはじめて成立するのだ。
今何故東江がそれを思い出していたかと言えば、あてどなく歩いていた校舎内で、会長その人を発見してしまったからである。
しかも、その横には意外でもないが−内原哲也が立っていた。

 聞き耳を立てるのは趣味ではないが、どうしても気になってしまった東江は、階段の陰に身を潜めて二人の様子を伺った。
自分もそうだが、内原達はまるで犬と猿よろしくいがみあう表情で、今の状況を話しているらしい。

「いい加減に素直になったら」
「俺は素直だよ。お前達こそそろそろ仕事しないとやべぇぞ」

このままでは生徒会はまともに運営出来ない。
それは先日聞かされた通りの事だった。東江も頷く。だがそれでは会長は不服であったようで、目線をそらしながら呟いた。

「俺達は哲也がちゃんと手伝ってって言ってくれれば……」
あまり話した事がないから気づかなかったが、会長はもしかしたらあまり饒舌な方ではないかのかも知れない。

「言われなくても一度任された仕事は責任持ってやる!ハイ復唱!」
「えっ、う、責任持ってやる……」

一体どんな関係なのか、端から見ている分には全くもって意味不明だ。
しかしそれでも、内原の目が随分と優しく細められているのを見る限り、この二人は旧知の仲間という物なのであろう。

(そういえば、昔“うっちゃん”もよく友達にお母さんみたいな説教してたよね)
変わらない所だってあったのだ。それが分かっただけで十分だった。
後ろから静かに忍びよる足音に耳をすませて、東江は深呼吸を一つ。
誰であろうと今は会いたくはないのだ。振り返らずにリノリウムを蹴った。

 背後から聞こえる足音を数える。1、2、3……。
おおよそ普通に生きているうちでは聞くことのないであろう数だ。
このエリート校の廊下はいつから走っても良くなったのか。というかお坊っちゃん達はそんな行儀が悪くて怒られたりしないのか。
そんな事をぼんやりと考えていたせいか。

「ッこの、大人しく、しろ!!」
「−痛っ!?」

髪の毛を捕まれ一気に背中ごと引き倒される。
ぶちぶちと無遠慮に死んだ細胞が我が身から離れる感覚がひどく痛ましい。

「やっと捕まえましたよ」
ふふん、と鼻で笑うように。
目の前に興奮した様子の副会長の顔がアップで現れる。
普段は優しそうに平井の腕に絡みついているくせに、今は野生の獅子のような目をしていた。
(狩られるっていうか、処される……?)

逃げ場などないように、周りには続々と人が集まってきて。
彼らは皆胸元に親衛隊のバッジをつけていた。
仁神の姿は見あたらないが、書記親衛隊の他の人物もいるようだ。

「お覚悟は、よろしいですか?」
「……受けなきゃいけない罰なら」

平井に、内原に。
接触した事全てが咎められなければいけない事だとして。
これを乗り越えればこれからも関わって良いのだとすれば。
そんな事はありはしないと割り切ってはいたが、受け入れるつもりだった。

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