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オレンジ信号機
3−5
 滝のように汗が出て、生唾を飲み込もうにもカラカラで息が苦しい。
ハーフアップにしていた輪ゴムを外しながら、小峰はソファに腰掛ける。

「内原が全部悪いんだよ」

思ってもみない意外な名前だ。
一体彼と何の関係があると言うのか。

「ボクはあいつにいつも勝てないから」
「だからあんなに嫌ってたのか」
どんな事情があって“勝てない”と言っているかは、最近知り合った東江には分からないが。

「うん……だから大事な幼なじみが入学してくるって知って浮かれてる所を、横からかっさらってやろうと思って」

まさか、と目を見開く東江に小峰は伏し目がちに笑う。

「一生気づかなそうだから親切にも教えてあげようか」
「……言わないで」
耳を塞ごうとすると、無理矢理両手を捕まれて目の前に向き直させられる。

「キミの本当の幼なじみ−うっちゃんは、内原だよ」

キミがいなくて寂しかったのも嘘。
会えて良かったのも嘘。
同室者になったのは、内原よりも先に申請を出したから。
だからこれまでの数ヶ月は全部、ぜぇんぶウソでした。

「キミの事なんかこれっぽっちも思ってないから、安心してよ」

小峰のため息が耳に届くまで、そこまで距離は離れていない筈なのに。
東江はガラスを一枚隔てているかのように、音が遠くに響いている。

「でも残念だったね、自分で本当の幼なじみを見つける事が出来なくて」
「余計なお世話だ!」

小峰の意地悪い声が聞こえた瞬間、突発的に自室のドアを開けた。
酷いと罵る気持ちの反面、全く持ってその通りである事に反論出来ない自分が、腹立たしかったからだ。

 頭をレンガで割られたような衝撃だった。
あの後、自室に閉じこもり一切出てこなくなってしまった同室者にどんな顔をすればいいか困った東江は、また一睡も明かす事を出来ずに朝を迎えた。

中庭を越えて、親友と共に教室へと向かうが全く会話を楽しむ気になどならない。

「あのさ、何かあった?」
「あったらヨースケに言わなきゃ駄目なの」
口をついて出た一言は自分でも驚く程刺々しい。
平井も、何かを察知したのかいつものようには引き下がらず、東江の腕をとった。

「夏夫、なんで俺にはいつも相談してくれないんだよ」
俺拗ねちゃうぞ、だなんて余裕ぶった態度ですら普段は癒されこそするが今は嬉しくない。
空気を読んで欲しい、と自分勝手に東江は思った。
空気など読まなくてもいいように相手を増長させてきたのは自身だと言うのに。

「人に言ったってしょうがない事だってあるんだよ」
「心配してやってんのに、何怒ってんだよ」
「頼んでない。ヨースケは生徒会の人とでも仲良くしてればいいんじゃない!?」

親友に背を向けて、がむしゃらに教室を後にする。
自分を責めるような視線が痛いが、それでも口は止まりそうになかったのだ。

 図らずもそれが仁神に頼まれた通りになってしまっているとは、東江は想像だにしなかった。

何故今日に限って平井の周りに生徒会のメンバーがいないのか。
それに気づく事すら出来ない。
それ以前に、自分がもうどうすればいいのかが、分からなかった。 

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あきゅろす。
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