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オレンジ信号機
3−3
 ちょっと面倒くさいかも知れないと思いながらも一緒にいて楽しいと思えるのは、やはり長年の時間が培ったものだ。

「今日の現代文って小テストだっけ−」
教室のドアをくぐれば。
平井の机周辺に集まる生徒会メンバーが目に入って一瞬で現実へとたたき落とされるが。

「遅かったじゃないですか、もうキリンになる所でしたよ」
ぷんぷんと効果音をつけて副会長は平井に寄ってくる。
内原の姿だけが見えないのが不思議なくらいで、もはやこの教室の日常の一つだった。

(……内原はどこにいるんだろう)

何か用があるという訳ではないが、つい先日まで平井を囲む一員だったのだ。
大浴場で見たあの表情に一因があるような気がして、東江は時計を見た。

「まだ授業まで時間あるし、ちょっと出てるね」
「あっちょっと夏夫!?」

人だかりの中心−平井に向かって一応は声をかけ、長針が6を回る前に帰ってこなければと決意を固める。

いつもは探す手間などなくばったり出くわすものだから、当然相手もどこかを歩いている筈。
そんな不確かな判断材料で校舎内へと繰り出した東江だったが、マンモス五頭分よりも大きいと言われるマンモス校いやいやモンスター校の広さを前に、為すすべもなく敗北した。

「先輩に聞いてきてみれば……何やってるんすか」
「あ、仁神君だったっけ」

内原の親衛隊の。
東江がようやく声をかけられた人物を断定すると、仁神は『気安く呼ばないで下さい』と睨んでくる。

あの内原にも、ファンが居るんだな。
などと不謹慎にも思ってしまった。

真面目に考えた事はなかっただけに、知れば知るほど面白くなってしまう。

「あの方ならいないっすよ」
「あの方って呼んでるんだ……!」
「……何でもいいじゃないっすか。まぁアンタの友人様のせいで皆さんが生徒会まともにやって下さらないから、内原さんが困ってるんすよ」

詳しい事情は不明だがどうやら内原は膨大な仕事を一人で任されている状況らしく。

−それは案に何とかしてやってくれと言っているのか。
言葉の意味をそのまま受け取るのであれば、そうなのかも知れない。
しかしそれでは、先日“警告”された意味がないような気がした。

「僕に何が出来る」

しかしそれとこれとは別問題だ。
健全な男子高校生が授業にも出られず一人責任を押しつけられるなどあってはならない。

「平井さんを突き放してくれればいいっす。こっぴどく」
「それが何の効果を……?」

むしろ今突き放されているのはこちらの方だ。
そう言い返したくても、目の前の少年は微動だにせず。

「先輩も困ってるんで。ここはお一つ」
「先輩って?っていうか僕と君同級生だよね−ってもういない」

人の話を聞かないのは人としてどうなんだ。
内原がおかされている光景を想像して、眉間のしわを揉む。

(内原って、根は真面目な奴なのかな。サボるとかそういう選択肢はハナからないとか普通にあり得そうだ)

「何だか分からないけど、いっちょやってみますか?」

一回ツンとした所でへこんでしまうような親友ではない事は、東江が一番よく知っているのだ。


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あきゅろす。
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