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オレンジ信号機
2−5
 「ちょっとそこの君、お時間よろしいですか?」
それは朝の事。昨日あまり眠れなかった東江が眠い目をおして寮の門をくぐった時の事だった。

どことなく、誰かに似た雰囲気の見知らぬ生徒に声をかけられた。
授業までは、まだ時間がある。
快く了承した東江だったが、五分後にそれは間違いだったと気づく。

 「お初にお目にかかります。私、生徒会書記様の親衛隊の仁神と申します」
「はぁ、どうも」
「つかぬ事をお聞きしますが東江君は今自分がどういう状況かお分かりですか?」
「どうって……いいますと」

分からない人だなぁ、と突然目の前の少年が頭を掻いた。
その仕草と先ほどの言葉で、ようやく東江は気づく。

(そっか、この人内原に似てるんだ、彼の親衛隊だから)

憧れの存在になりたいから、見た目から入るという事か。
黙ってしまった東江に、仁神は訝しげな表情を浮かべたまま続ける。

「補佐になった、平井君は君の古くからのご友人だとか」

東江は、この学校に入る前から、生徒会には近づかない方がいいとさんざ聞かされていた。
他でもない、平井自身から。

「平井君は、そのもっと古くから、副会長様、会長様達とご友人だったそうです」
「そ、うなんですか」

そんなの全然知らなかった。
と言うか、昔から平井は学校外での姿をあまり東江には見せてくれなかったように思う。

「だから我々親衛隊連合も、彼には手を出さない事に決めました」
「そっか、それは良かった」

−生徒会に関わると、親衛隊から何をされるか分からないぞ。
いつぞや平井が、そんなような事を電話口に言っていた気がする。

内原が書記であった事すら、つい先日知ったのだ。
仕方がないだろうと弁明しようにも、きっとこの目の前の人物は納得してくれないだろう。

「いや良くないんだけど」
「え、なんで?」
「こっちだって突然現れた人に大切な人をかっさらわれたらいい気しないんでね」
「ああ、それはちょっと分かる気がする」

(もし僕が、うっちゃんの事を誰かに取られたら嬉しくない)
それがどちらの“うっちゃん”であるかは、本人も不明瞭。
しかし、仁神はやれやれと首を振って一歩近づいてくる。

「分かってないですね、これ、警告っすよ」

“これ以上生徒会の方に近づくようなら、平井の分も含めて報復します”

無表情で、そう言い切られてしまえば。
八つ当たりじゃないかとか、理不尽じゃないかとか、そう言い返す事すら出来なくて。

こんな事は思いたくない筈なのに。
(ヨースケが転校してこなければ)

そうやって考えなければ、頭の中が八つ裂きにされてしまいそうだ。
だって昨日だって、東江はただ苦しいだけだった。

近くにいるのに、会話が出来ない親友。
何を考えているか分からない同級生。
何かがありそうな、初恋の人。

このやり場のない気持ちを、どうすればいい。

「こんな急展開は望んでないよ」
仁神が立ち去って。たった一人取り残された場所で呟く。

何かが、動き出してしまった事だけが確かだった。
そしてそれは、坂道を転がるように、進んでいく。

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