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Sainen

 目的を持った今、あてもなく歩くだけで終わってしまうのは勿体ない。

少しでもきっかけになる何かがあればいいと思い、オレの最初の一歩は唯一の持ち物から調べる事にした。
サングラス−は眼鏡屋を覗きこむだけで終わってしまう予感がするので、後でも問題ないだろう。
それよりもまずは、名刺に書いてあった住所に行く方が先決だ。

「“第一部隊 先鋒”……って、一体何の事だろうな」

自らの名前の上、ふた回りほど小さい文字で記されているそれは予想に外れなくオレの所属しているものだろう。

「今気づいたけど、働いてるんだな、オレ」
この場合給料とかどうなるのだろうか。
勝手ながら無断欠勤が続いているのだ。普通だったら−。

(ああそれでも、あのお方なら、きっと心配するだけで笑って許してくれるんだろう)

「あの方って……ッ!?」

ふ、と息をすいこんで濁流のように沸いてくる記憶に流されないよう理性を保つ。
すぐ横にガードレールがあって良かった。少しでもバランスを崩していたら、倒れ込んで居たかも知れない。

(そうだ、オレは、あの方のために邁進しなくちゃいけなくって)
どうして。まさか。毎度毎度こんな思いをしなければならないのか。

こんな大事な事が頭からぬけ落ちているなんてらしくないと思った。

(オレはもっとしっかりしてて……ってこんなの考えてる場合じゃねぇ!)
もつれる足に苛立って、それでも急ぐしかない。

そうしてオレは自分にとっての“住処”である場所へと駆けだした。

 本当だったら、あの方に会って全てを打ち明けるべきだ。
社会人なら上司に報告連絡相談は絶対条件である筈。
しかし、己で解決したいと思ってしまうのは、何よりも優先すべき存在と同率に等しい程に浮かんでしまうのは、あの少年のせいか。

「……つー訳でオレは今日働いてるって事が判明した。んでアジトに行ってきた」
「すご、一歩どころか二三歩前進してるじゃないですか」

アジトって、なんか大きい組織ですか。驚いた様子で、それでも嬉しそうにフユキが相づちをうつ。

「そうかねぇ、ま、そんな事でもっと慌てて記憶取り戻さなきゃなって思ったとこよ」

まだそこまで全てを思い出したという事はない。
だがきっとオレがいないせいで困っている人が少なくとも一人はいるに違いないのだ。

「じゃあ、もっとおれも頑張って南波さんの事探しますね」
「フユキ自身の事も探しつつ、な。そうしてくれると助かるわ」

どんな仕事をしていたかまでは最低でも思い出せなければ、あの方の元へはまだ戻れないだろう。
フユキはと言えば、オレのためだと言って今日もこの街の至る所を調べてくれたようで、しかし中々思ったように成果を出せなかった事を詫びていた。

その姿が、どこか小動物のように一瞬見えたのはこのサングラスが黄身がかっているせいではない、と思いたい。

「ごめんな、お前の記憶じゃなくて」

小さくそうやって謝ると、フユキは眉根を下げて困ったように笑う。
気にして欲しいというオーラを存分に出しながら、気にしないでと口では言うのだ。

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