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Sainen

 この世界を180度反転させてしまえるような、恐ろしくも確実な期待の出来る物が存在するらしい。
それは使う者によっては兵器になったり、救世主になったり、ただのオモチャにでもなる。

その事に一番早く気づいたのは、奇遇にもオレの相棒である青年だ。
だからこそ、先陣を切って突っ込んでいったのは彼だった。

しかし、負け知らずだった筈のキヨはあっさり戻ってきたかと思えば−他にも狙っているヤツがいた、と報告をするだけに留めた。

オレが想像するに、他と同じようにただ奪うだけではこの案件は解決しないと思ったのではないだろうか。

「じゃあキヨ、代替案を出してみろよ」
「ここは敢えて……説得するとかどうっすかね」
「毎日の積み重ねってか?まぁ、いいんじゃねぇの」

ボスの反応は意外にも好調で、翌日からは本人が辞退を申し上げるまでは毎日馳せ参じるようになっていく。

当初はキヨで、敵対する者に夜道で襲われ身を引いた。
二番目は第二部隊で一番母性があると言われているグラマーな女性だった。

優しく包み込むような話し方は、聴く人全てをついつい独特の世界観へと引き込んで丸め込もうとしてくる。
だが、彼女にも難攻不落の城を落とす事は叶わなかった。

というか、妊娠が発覚してそんな危険な所へは行けなくなってしまったのが理由だった。
そうして数人が人生初であろう敗北を味わわせられて、ついに、オレの番が回ってくる事になる。

 白羽の矢が立ったという表現が一番的確であろうか。キヨから言付けを頼まれたその日オレは自己最新記録の時間に起床し現地へと足を運んだ。

まるで、不良が住んでいるかのように落書きされた塀を横目に門まで一直線−をしないのが、オレのやり方だ。

(オレはあんまし口うまくねぇし。キヨは怒るかも知んねぇけど、多分ボスは喜ぶだろ)

力ずくで奪うのは、もはや体の底に染み込んだオレの専売特許だ。
他の誰にも出来なくたって、オレになら出来る。
ポケットの中から使い慣れ親しんだ石を一つ。門からはある程度の距離を取り、アジトよりも広い屋敷へ手を向ける。

前方には愚かにもこちらへ歩みよってくる家の主。
濁った目をした、まるでかつての自分と向き合っているかのような心境にさせられる表情の少年だ。
鳩尾に一発。そして気絶してくれれば後はこちらの物だと思った。

 しかし、石を投げた瞬間、少年の目ははっきりと輝いた。
例えるなら、それは夏の日差しよりも強い光。
彼の手には、噂に聞いていた金属バット−まさか、打つ気か?

「マジか」

たった2秒の間に、よく言葉を発する事が出来たと我ながら感心する。
頭痛が起きてもおかしくないような大きな音がして、オレの方へまっすぐにホームランが返ってくる。

しゃがみながら、再度相手の顔を確認すると、先ほどと同じように目の中はくすんでいた。
とどのつまり、オレは敗北した。……というか、それ以上に。

(絶対、さっきと同じ輝きをさせてみせる)

単純明快な思考回路で、オレは彼に一目惚れしてしまっていた。

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あきゅろす。
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