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Sainen

 「そこに隠されている物は救世の神です。だからこそ今すぐ施設で保管して来るべき日まで閉じこめておくべきだ」

おれに銃をつきつけて、まったく笑っていない目でそう宣うのはどこからかぎつけたのか書斎を狙うものの一人だった。

「おれだって中を知らないのに、あなたに扱えるって言うんですか」

怖くても。それでも、家に籠もっていても頼れる両親も何もいないのだ。
おれはバットを片手に門を越えてくる人物を追い払う日々に追われていた。
地の利を使い弾丸を避けて、相手の隙をついて振り降ろす。

自分の部屋の窓から飛び降りて、ひるんでいる間に一掃したこともあったっけ。
ただの学生にしては求められている事がハードすぎるような気がする。

それでも、日夜騒がしく動き廻っているというのに近隣住民から何も言われずにいたのは、すでに人が住んでいないからだろうか。
それとも、世界はすでに終わっていたという事か。

 骨の折れるような思い−実際何度も怪我をして、おれが撃退していたもの達は、大きく分けて三組ほどいるようだった。

冒頭の、保護をこちらに委ねよとか、世界を救う主になるとか言ってくるもの。
それから、これが一番恐くて出来れば来てほしくないのだが、危険物は明るみにでる前に壊してしまえというもの。

そして最後に、私利私欲のために利用したいというものだった。

最後のは、基本的には話し合いで解決しようというスタンスだったからか、長い目で説得を促してくる事も多く、他の二つとは違い定期的に担当に変更があった。

 そうして、季節が一巡りした頃だった、南波ヤスアキが現れたのは。

すべての始まりは、南波の得物。低い位置から急浮上する投石の技術だった。
センスの悪く見られそうな真っ赤なコートは、南波の一族に所属している証。

ならば音便に済むであろうと思い近づいたおれに、全く無遠慮に飛んできた石。決別の意志という事だろうか。

軽そうにも重そうにも見える丸い石は、まるで簡単に打ち返せそうに目にうつった。
迷わず、金属バットを手にして、それから。

「マジか」

相手が唖然と口を開く様子が、スローモーションのようにゆったりと。
そのうざったい黄色いサングラスをめがけて勢いよく打ち返す。

堅いもの同士がぶつかり合う音は、どうしてこうも気持ちがいいのか。
さっとしゃがみこんだ男性に当たる事はなく、石は飛んでいく。

あの最後の試合の日に打ちたかったどんなホームランよりも、心を晴れやかにする一瞬だった。

「オレのを打ち返すなんて聞いてねぇっつーか、あり得ねぇだろ……」
「あの、南波の人、ですよね。ボスの方の考え変わったんですか?」
「っいや、今まで何人も追い返されてるって言うからどんな奴かと思って力試しをだな」

目の前の男性は慌てた様子で、息せききったように一気に語りだした。

「そう……ですか」

それなら良かった。さすがに何度も断り続けてきていたから、いい加減にあちらの逆鱗に触れているのかと思ったのだ。
恐い思いをしなくて済むのなら、それが一番いいに違いない。それにしても。

(なんでこの人、顔真っ赤にしてるんだろう……)

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あきゅろす。
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