Sainen
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おれのそれからの日々というものは、朽ち果て様変わりした屋敷の中をひたすらぐるぐる歩き回って、少しずつ、元の自分を取り戻そうと試行錯誤をしていた。
まず最初に思い出せた事は、おれにとって一番大好きだったもの。
奇しくも、南波の言葉をヒントに得ていた。
一つのボールの軌道を追って、歓声や悲鳴、悲喜こもごもの感情が一同に会す大会。
土まみれになりながら、汗を拭う事も忘れて全力疾走するその姿は、誰の目にも等しく熱く残るに違いない。
そう、おれはスポーツが好きで、とりわけ野球が好きだった。
初めて出会ったのは、物心つく頃に見たテレビ番組だった。
夏の高校野球、甲子園を特集したそれは、白熱する試合を完全ノーカットで送るという史上初の試みがなされている。
最初に目に飛び込んできたもの。真っ青な空に、まばゆく光りを反射する白いユニフォーム。
次に耳に届いたもの。喉が張り裂けるほどの声援。絶えず流れるマーチ。
唾を飲み込んで、五感にしみこませていく。
まるですぐそこで行われているかのような臨場感は、幼心ながらわし掴みにされるほどの迫力だった。
誕生日プレゼントに買って貰った木製バッドをあてどなく振る毎日を過ごしていたおれを、近所の草野球チームは快く歓迎してくれた。
気の置けないチームメイト。同じ趣味を持つ友人達と日々欠くことなく練習にあけくれるのは楽しい。
しかし、小さいチームだからなのか、父親はあまりいい顔をしていなかった。
だが、四番バッターになって毎日頑張るおれには何も言わなくなっていたのが面白いと思ったのを覚えている。
「あの時は、これこそがおれの生きてる意味って思えるくらいだったのに……」
一度回想を止めて。玄関先でへたりこんで、金属バッドを抱きしめる。初めて触る筈のそれは、冷たく、落ち着いた思考を取り戻せる気がする。
目を閉じて、再び見るのは、起きているのに見られる夢。
中学三年生の春。突然父親から告げられた事実は、おれをどん底へと閉じこめる一言だった。
本当に、心が丸ごと冷凍されたような、青天の霹靂。
その日からおれは、毎日、一番乗りに顔を出していた朝練に行くのを止めて。
木製バッドを折って。家の中では暴れて−父親に取り押さえられて。
周りに心配をかけるわけにはいかなかくて、だから友達とも徐々に距離を置くようになって。
そうして、仲の良かった友人達が草野球チームから引退をする事になった最後の試合。
そこにもちろん、おれの姿はない。では何故知っているかと言えば、それはこっそり、見に行ってしまったから。
結果は−惨敗。空振り三振の連続で、おれがいれば、きっと打てた球だった。
おごりかも知れないけれど、それでも、そう思わないと、心が折れそうになっていた。
(……だからおれは、ずっとあの時あの試合に参加出来なかった事を、後悔していたんだよね)
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