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Sainen

 −眩しい、と思った。目を塞いでいるのこの状況下で、眼球は強い光を感じていた。
許されるのであれば、このままずっと眠っていたい。
何故だから知らないけど、おれは最近ずっと寝ていなかったらしいから。

しかし、その気持ちとは裏腹に、急激に精神は覚醒へと導かれていく。
まるでそれは、瞼をピンセットで引き上げられるように。

(目を開けてくれ、お願いだから……)

誰かが耳元で言った言葉は祈りか、それとも諦めか。
ふっと目をあけたおれの目の前に、その声の主はいない様子だった。
いたとしても、その声が誰のものか判別がつかない訳だけど。

「それにしても……」

ここって一体どこなんだろう。
色が褪せてところどころが白く擦り抜けた畳に、似つかわしくないシングルサイズのベッド。

小学生の時に買われてそのまま、時や体の成長に合わせて位置が調節され使われ続けているらしい勉強机。
嫌がおうでも生活感を感じてしまう部屋だ。

どうやら自分はベッドではなく畳の上で無造作に体を投げ出して寝ていたのだろう。
体のあちこちににぶいしびれを覚えながら、おれは立ち上がった。

 気がつくと、見覚えのない部屋にいて。
しかもその部屋の主は一向に帰ってくる気配がないと見た。
この状況は、どこかで見たことがある気がする。

「そうだ、脱出ゲームか」

一人だけでぼうっと立ち尽くしているせいか、ついつい独り言のように反芻してしまう。
出口の見えない袋小路。少ない手がかりを探し出して、達成感やエクスタシーを感じるといういわば謎解きそのもの。

「大前提として、おれが誰かに閉じこめられてるって話になるけど」

そして、出口と思わしきふすまは確かに目の前に見えているのだけど。
おれはそれでも、初めて自分が体感型のゲームをやっているみたいな気持ちになってしまっていた。

 まずはふすまに手をかけて、スライドをしようとして、おれは呼吸を止める。

「本当に閉まってる?」

方向が間違っているとでもいうのだろうか。
そう思っておれは右に左にふすまを揺らしてみるが、しかしどうしてかぴくりとも動かなかった。

「……実際出られないってわかると辛いかも」

独り言を打ち切って、颯爽と背後へと振り向く。
こうなってしまえば、部屋の主の事などもう気にしてはいられない。
是が非でも、外に出なければならない。

 この時おれは、自分でも笑ってしまうくらい、外に行きたいっていう思いが強くなっていく気がした。
早く外に出て行って。

それから−あの人に会って話をしなきゃ。

それが誰かは、頭を振っても何一つ全くわからなかった。しかし、やっとわかった事は一つだけあった。

「おれ……って、一体何者なの」

自分自身が一番不明瞭な存在であるという事だった。
世間ではきっと、記憶喪失とでも言うべき現象。
慌てて両方の手で顔を触ってみても、まるで宇宙人の皮膚に触れているようで。

「でもこの部屋はなんか、懐かしい感じするんだよね」

もしかしたらそれは、既に数時間の時を過ごして変に愛着を持ってしまっているだけかも知れない。
それでもおれはなんとなく、直感でここが自分の部屋だとわかっていた。

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