透明光速 五月03 「タナカー絆創膏貸して」 「良いけどちゃんと返せよ」 「すいません頂戴致します!」 何時も通りになりつつあるこんな会話をしていた時の事だ。加瀬は教卓に背を向けてずーっと俺を凝視していた。 「……何だよ加瀬。俺の顔に何かついてるか?」 自分の頬をぺちぺちと叩いて見せる。 すると加瀬は、いや、と言葉を濁した後、うんうんと考え事をするかのように目を瞑った。 「本当にどうした」 何時もに比べて静かすぎるくらいの加瀬に、少し焦りを抱く。具合でも悪いんだろうか?そんな俺の思いとは裏腹に、加瀬はパチリと目を見開いた。 「あのさ、思ったんだけど、タナカって俺が発祥だよね」 ずっと考えて居たと思いきや、加瀬は一体何を考えて居たんだろうか、取りあえず俺は意味の分からない言葉の続きを促す事にした。 「俺はカーチャンから生まれたんだが、そう言う意味じゃねーよな」 「うん。"タナカ"って呼び方の話。俺が初めてじゃない?」 そう言われて今度は俺が考える。 小中学の頃も結構呼ばれて居た気がする、そう答えると、加瀬はええ、と打ちひしがれたようにうなだれた。 「何かさ、俺だけの呼び方で呼びたいんだよね。何かオンリーワン!って感じで特別じゃない?……タナカの下の名前って何だっけ」 オイオイ、クラスメイトの名前くらいフルネームで覚えてくれよ、俺はため息を吐く。 「明だけど。何、アッキーとでも呼んでくれんの」 あんまタナカ以外で呼ばれた事ないなぁ、そんな風に思いながらそう言うと、加瀬は目を輝かせてコクコクと頷く。 「それ!それがいい!俺今日からアッキーって呼ぶわ」 これ俺だけのスペシャルなー。 クラス中に響くんではなかろうかという程の大声で加瀬は叫ぶ。恥ずかしいからちょっと黙ろう。な? [*前][次#] [戻る] |