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透明光速
ピザの日は焼きもち焼き 前
 ほんの7時間前。日付が変わった直後に電話をかけたら、彼は苦笑い混じりにも嬉しそうに返事をしてくれたのを思い出す。
鞄の中にありったけの気持ちをつめこんで、俺は登校路へと足を伸ばした。

「11月20日、今日はなんの日、フッフーってね!」
教室のドアを開けるや否や開口一番に声を上げると、既に着席している何人かはハイハイとあしらうような目をしている。

「……おはよ、加瀬」
さっきぶり。とどこかそっけなく目をそらして言うのは彼の照れ隠しのサイン。

「改めまして誕生日おめでとう、アッキー」
それを本人に教えてやるつもりは毛頭ないけど、それでも俺はその表情が好きだったりする。

先に到着していた恋人−明の机の上には、そのクラスメイト達に貰ったのかプレゼントが乗せられていた。
平凡だなんだとは言われているが、それなりに他人から好意的に見られているようだ。

 「ねぇアッキー、今日の部活はどうしよっか」
「どうするって、何を作るかって話か?」
「というか、アッキーのプレゼントをリョータと二人で作ってあげるよ」
「うは、まじか」

後ろの席から明をつついて、内緒話をするようにサプライズを披露する。
どんなリクエストにだって対応出来るように、食材も器具も沢山あるのだ。

(隠れて買い出しに行くの大変だったんだから)
だからこそ、出来るだけ彼の願いを叶えてあげたいと思うのだが。

 明は最近、キヌアやクスクスを良太に教わってはまっているようだったので、俺の予想としてはそのあたりだった。

しばらく頭をひねって悩んだ末、明はふと顔を上げて呟いた。

「ピザ……」
「え、ぴ、ピザ!?」
「おうよ、なんか今日ピザの日って妹が言ってたからさ、何となくだけど」
「ピザかーピザ、うん、ありだね」
努めて冷静に返事をしながら、俺は内心とてつもなく混乱していた。

(調理室の火力は?焼くならやっぱり石窯じゃなきゃダメだよね?でもそれじゃ用意なんてとても……アッキーに食べて貰うなら自分でも納得のいくものじゃないと)
黒板へと視線を戻した明が、こちらを見ていなくて本当に良かったと俺は心から思う。

(こんなにみっともない顔、見せられない)

 ところがどっこい俺のそんなちっぽけな悩みは万能な幼なじみの鶴の一声で解決してしまうのだった。

「じゃあ僕の家でやればいいんじゃないかな」
「と言うと?」
ピザというワードを聞くや否や、良太は即答した。

「いや、石窯あるから」
「あるの!?」
10年来の幼なじみであるが、良太からそんな話は聞いた事がない。
驚きのあまり前のめりになって尋ねれば、良太は伏し目がちに答える。

「最近父親が焼きプリンにはまってて導入されたんだぜ」
「ぶ、ブルジョアだ……」
「おい加瀬お前の幼なじみすげぇな」
そして君の元彼だよ。そこまで言ってしまうのは誰も特しない意地悪だとわかっていたから、あえて飲み込む。

 調理器具や材料を持って向かった先は、幼い頃数度きたきりの北村家。
小さい時は大きい屋敷のように感じていたが、大分大きくなった今ではそうも感じまい。

「と思ってたさっきまでの俺を殴りたくなったよね」
「トール何か言った?」
目の前の重厚そうな門扉を前に、俺は絶句した。
自分の家のごく普通な一戸建てを想像していたせいか、その落差は凄まじい。

「うおおっ大豪邸!!ジャグジーあんの?シャンデリアは?」
「庭にブランコなら」
「すげぇ、良太がすげぇよ……!!」
ここにきて明は今日一番に楽しそうな表情ではしゃぎだす。
普段がインドアなせいか変にスイッチが入っているらしい。
誕生日のせいかな。でも俺としては、何だかさっきから少し面白くない。

「ピザが出来るまで遊んでたらいいんじゃない?」
「そうする」
すっかりメインがそちらになってしまった明は、テンション高く庭に駆け出す。

(なにもあんなきらきらさせた目しなくてもいいじゃん)
こうなったら、美味しいすぎて泣き出すようなレベルのものを作ってやる、と俺は決心した。

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