真空
4
音は止まった。
そう思った瞬間に、また音はした。
興味本位で俺は音のする方へ近づく。
段々と、廊下が薄暗くなって来ているのは気の所為だろうか?
興味本位は恐怖心に変わった。
なんだろうか……
この感じ……
何かに誘われて、足が勝手に動いてしまう。
自分を始めて怖いと思った。
自分自身の"雄の本能"を確かに、楓は感じ取る。
いやだ。行きたくない。
この先には……行ったらだめだ。
冷や汗が掌に垂れた。
チリン…チリン……
「鈴?」
音は鈴の音だった。
最初よりも、断然大きく聞こえる。
指先が小さく震える。
今、俺は何に襲われているのだろう。
恐怖心?
いや、違う……もっと単純で隠れたもの…。
チリンチリン…
また鈴の音が聞こえた。
足はどんどん近づいて行く…。
「何してるんだ?」
やっと捉えた、小さな背中に話掛けていた。
制服じゃない。
…着物?
艶やかな、紅を基調とした煌びやかな着物を着ている。
学園の生徒では無い。
……少女?
髪の長さは肩くらいだ。
癖毛なのか、ゆるりと曲線掛かった黒髪。
中々、少女は振り向かない。そこには異様な雰囲気があった。
芳香のような香りが、楓の頭を惑わし始める。
"欲情"
うなじが誘っているかのように、白く少し紅い。
…だめだ。
俺は何を考えてる。
「おい。………!」
楓が二回目の問いかけをした瞬間。
少女は振り返った。
『理事長子息ってさ、』
『そいつノーマルなのに』
『目があっただけで』
―――……目があっただけで。
「ごめんね。だって、ぼくの猫が逃げちゃったんだ」
振り向いた少女…いや、少年は妖艶な、浮き世離れした顔立ちだった。
"白い"
それが印象的だ。
この世のものとは思えない、綺麗すぎたもの。
まるで人形
楓は固まったまま動けない。
これが…噂の理事長子息か?
やばい。
コイツ……やばい
『卒倒した』
それを馬鹿馬鹿しく考えていた俺が間違いだった。
桁が違う。
黙っている楓を見かねて、白い子猫を大事そうに抱いた少年が近づく。
チリン…
猫のものかと思ったが、どうやら違うようだ。
少年の腕輪の鈴から鳴っていた。
迫力に負けて、楓は一歩後ずさりした。
「なぁに?ぼくが怖いの?」
くすくす笑う少年。
少年は笑ったが、楓は笑えなかった。
図星だったから
"自分の本能"が怖いのだ。
「みんな、ぼくを見るとそうなるよ。」
「……あ…そう。」
以外にも、俺は普通の反応が出来た。
いつものクールな性格を演じられたんだ…。
こんなに指先は震えているのに、なぜだろう
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