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真空
3



うとうとして来て、睡魔に襲われそうになると
やっぱり空気の読めない予鈴は、今頃鳴り響いた。
廊下に居る見物客は、次の授業に間に合わせるためにぞろぞろと各自の教室に帰っていく。

今更鳴った予鈴に少し腹が立ったが、もうすっかり痛いくらいの視線は無くなった。


「やっとか…。」

こんなのも束の間だ。次の昼休みに、また来るだろう。
いつになったら俺の影は薄くなってくれる?
平穏な日々は暫くやってこないのだけは解るけれど…。
楓は時計を軽く睨み、次の授業の準備をする。

こんな外と遮断された学園内では、ストレス発散も出来ない。ただでさえ友達も居ないのだから。

楓のストレスはかなり限界まで来ていたと言えよう。




****


「それでだな、此処はテストに多分でる」

「えーはっきりしてよー」
「先生ってば、テキトーすぎ!」

クラスのテンションがいつもより高い。生徒からの人気が高い教師の授業だ。

俺にとったら、どうでもいい。
もうすぐ迫っているテストで平均的点数が取れればそれで。人気な教師だろうが、人気じゃない教師だろうが


イライラが高まる。
鉛筆がノートと擦れる音。
周りの笑い声。

イライラする。………クソッ



ガタン――

楓は、大きな音を上げて立ち上がった。
笑いに包まれていた教室が一気に冷めていくのが解る。

全員の視線がこちらに向く。

「水谷、どうした?」

教師の驚いた声が掛けられる。
どうしたもこうしたも、ストレスまみれで苛つくんです!とは言えず、一言だけ返した。

「腹が痛いんで。」

「お、じゃあ、保健室に」

教師が最後まで言う前に、楓は教室から出ていった。
ざわめく教室を、必死に宥める教師だったが自分自身も困惑しているのだった。



「睨まれなきゃいーけど」

何かに解放された後の、爽快さが楓の髪を揺らした。
誰にも見られることが無いのは、気楽でいい。

保健室の前を迷い無く素通りして、適当に広い校内を歩き回る。


授業中だから誰にも会うことは無いだろう。

もし、教師に見つかったら"保健室を探しているのですが、迷ってしまって"と嘘をつけばいい。

ひたすら階段を上っては、廊下を歩いた。
宛もなく歩くことは、今まで無意味で理解不能だと思っていたけれど。

窓から見える景色は全て雨。
灰色の空と、どんよりした雲。それは心まで歪めてしまいそうな程。

俺は空が嫌いだったから。元から、青色というのは好きじゃなかったのもあるけれど。
空のように固定されずに二十四時間、漂って好きに動き回れるのが
憎い程、羨ましかった。

楓は足を止めて空を見ていた。
廊下の静けさの中で、雨音だけが響く。
ぽつり、ぽつり。と


それと重なり合うように、何か聞こえる。

「何だ?」

妙に肌寒さを感じた。不気味に泡立つ…本能

此処はどこだろう
楓は、完全に場所を把握できなくなってしまっていた。



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あきゅろす。
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