11周年記念物語「人魚姫の想い歌」 sideトラネコ ネコ(王子)と貝殻とワガママと 「すっかり遅くなっちゃったね。レンちゃん、待ちくたびれてないといいけど」 ショーコさんの店に向かう途中の次元の挟間の森の中、ボク、トラネコの隣を歩く、高級な赤い蝶ネクタイに黒のスーツと身なりのいいブタの男の子、ブータが言った。 「トラネコがあれこれこだわりすぎるから、時間がかかっちゃんだよ」 「こだわったんじゃない。ちょうどいいものがなかったんだ」 ボクの手には貝殻がある。 空の海の砂浜で、レンとブータと一緒に遊んでいた時にきれいな貝殻を見つけた。 レンにあげようと思ったが、どうせあげるならレンのピンク色の髪に合うものがいいと思った。 レンに似合う貝殻を探すのをブータに頼ん……ではなく、手伝ってもらった。 その間、レンは暇だろうと、適当な理由を話して先にショーコさんのお店に行ってもらった。 「探したのはほとんどボクだけどね」 「ボクだって探しただろ」 「これはレンに似合わない、あれは形が悪いって文句ばっかり言っていたような気がするけど」 「あれは文句じゃなくて、意見だ。レンに適当なものは似合わないからな。あげるなら、厳選に厳選を重ねた上質なものが当然だろう」 レンのピンクの髪はとてもきれいだ。その髪は空の下では優しい光を放っているようで、水に濡れると艶やかな美しさがある。 まるで花のようなきれいな髪は人間の姿でも、本来の姿である人魚の姿でも変わらない。 それに似合うものを選ぶために意見を言うのは当然で、文句と言われるのは心外である。 ……まあ、少し言い過ぎたかもしれないし、少し探すのを任せ過ぎたかもしれない。 「……苦労をかけたことは謝る」 「そう思っているなら、いいけど。その代わり、ちゃんとトラネコからレンちゃんに渡してよ」 「……う、うん」 レンに渡す。 貝殻を探すことに夢中になって、すっかり忘れていた。 レンのために探したのだから、これはレンに渡さなければならない。 だけど…… 「まさか、どう言って渡そうか、考えてないとか?」 「……そ、そんなことは」 否定しようと思った。だけど…… 「……考えてなかった」 と、何も思いつかなくて、正直にブータに言った。 「厳選して見つけたものだから、特別な言い方をしたほうがいいに決まっているよな」 「そうやって、いつもみたいに偉そうに言ったら、いくら優しいレンちゃんでも嬉しくないと思うよ。素直にあげる、でいいんじゃない?」 「せっかく見つけたものなのにそれだと適当すぎる」 「じゃあ、偶然見つけたとか」 「偶然、見つけたもので渡したくない」 「じゃあ、空から降ってきたとか」 「貝殻は空から降ってこない。隕石じゃあるまいし」 「じゃあ、好きな君のために見つけたものだって、言えば?」 「な、何でそうなる!!」 「だって、トラネコはレンちゃんのことが好きなんだろ?」 [*前へ][次へ#] [戻る] |