11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
7
思っていたことを当てられて、びっくりした。けど、わたしは首を振った。
「わたしはいいです。人魚のわたしなんかが、可愛い服を着ても可愛くなれることなんてないですから」
わたしは空の海の精霊で人魚。本当の姿は人魚で、人魚の私が今こうして陸の上にいられるのは精霊の力で人間の姿に変身出来るからで、人間の姿になる時はいつも同じ服で、今着ている服以外の服を着たことがない。
可愛い服を着たとしても似合うかどうかわからないし、人魚のわたしなんかが可愛い服を着てもクウさんたちみたいに素敵になれるわけがない。
「わたしが可愛い服を着ても、トラネコさんが喜んでくれるかどうかわからないですし、それに……」
迷惑かもしれないと、言いかけたわたしに、
「言ったでしょ? 女の子は人間でも精霊でも、誰だって絶対に可愛くなれる可能性があるって。もちろん、人魚の女の子もね」
ショーコさんが自信たっぷりの笑顔で言ってくれた。
ショーコさんの言葉に、クウさんたちも、
「わたしもレンちゃんは可愛くなれると思います」
「……わたしも」
「あたしも思うわ」
そう言ってくれた。
「女の子が可愛くなれば、男の子は絶対喜ぶわ。コウキくんたちがそうだったでしょ?」
確かにコウキさんたちを見ていて、そうだった。
コウキさんたちがそうだったようにトラネコさんもわたしが可愛い服を着て可愛くなったら、喜んでくれるのかな。
もしトラネコさんが喜んでくれるなら、可愛い服を着てみたい。
「てなわけで、リーちゃん。やっちゃってよ」
「やっちゃて、っていっても、このファッション誌には人間の服しかないからねえ……」
空の海の魔女さんが言うにはクウさんたちの服を変えられたのはファッション誌を見たからで、参考に出来る服がないと変えることが出来ないという。
先ほどの魔法でわたしの服を変えられなかったのはそういう理由だそうだ。
わたしは人間のクウさんたち小さいから、ファッション誌の人間の服を着ることが出来ない。
やっぱり、無理。そう思っていたら、
「ないなら、描けばいいんじゃない?」
とカリナさんが言った。
「この服の魔法がファッション誌を見てやったんなら、あたしたちがレンちゃん用の服を紙に描いたら、空の海の魔女がそれを見て、服を変える魔法を使うことが出来るんじゃないの」
「そっか、さすがカリナ姉です!」
「そういうことなら、さっそくやりましょう!」
ショーコさんが店の奥からたくさんの紙と筆を持ってきた。
「この通り、紙はたくさんあるから、レンちゃんに似合う可愛い服のデザイン描き、どんどんやっちゃって!」
どんと、テーブルに紙と筆が置かれる。
「あたしが言い出しっぺだから、やらせてもらうわ」
カリナさんが紙と筆を取った。
「わたしもやります。服のデザインはやったことないですけど、絵は得意ですから」
「……わたしもやる」
クウさんとミコトさんも紙と筆を取る。
「んじゃ、みんなでやりましょうか」
「皆さん……」
わたしのために……皆さんの気持ちがとても有り難くて、とても嬉しかった。
「わたしのために有り難うございます」
頭を深く下げて、心を込めてお礼を言った。
「いいのよ。可愛い服を楽しみにしていてね」
「頑張って、レンちゃんに似合う可愛い服を描きますから」
「はい、よろしくお願いします!」
皆さんが考えてくれた服なら、きっと、ううん絶対、可愛いに決まっている。ぜひその服を着てみたい。
そして、出来るなら……その服を着たわたしをトラネコさんに見てほしい。
クウさんたちが紙に服を描くのを見ながら、その服を着られることにわくわくした。
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