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11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
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わたしはおかしは好きだし、おかしの国のパティシエとして、おかしを作って、みんなにおいしく食べてもらうことに喜びを感じている。

おかしの精霊として、おかしを守るために戦うことも嫌じゃない……むしろ戦うのは好き……って、そうじゃなくて、おかしの国のパティシエは国を守る騎士でもあるから、騎士として戦うことは当然なことであって、戦いを楽しんでいるというわけではないですから!

……と話は戻って、おかしの精霊として課せられた義務についてはわたし自身がおかしが好きだから、重く感じることはあんまりなく、おかしの精霊としての日々を楽しんで生きている。

けど時々、辛いことだってある。

だけど、精霊はどんなに辛いことがあっても、逃げることは許されない。目を背けることも、許されない。

どんなに辛くても、精霊は司るもののためには放棄することは許されず、それが辛いと思うことがある。

そう、今日のことだって……

 「ねえ、リーちゃん。レンちゃんが『彼女』に取り込まれた時、トラネコくんと同じくらいレンちゃんを助けたいって思っていたんでしょ?」

リーちゃんはレンちゃんをとても大事に思っている。

それには深〜〜〜い事情があるんだけど……その話を話すと本編みたいに長くなるから、また今度ということで。

とにかく、リーちゃんはレンちゃんを大事に思っていて、『彼女』にレンちゃんを取り込まれた時、助けたいと思ったはずだ。

そして、レンちゃんと同じ人魚だった『彼女』も助けたかったと思う。

そう、たとえ、精霊の定めを破ったとしても……

だけど、リーちゃんは出来なかった。

定めを破って、消えてしまうことを恐れたわけじゃない。

リーちゃんは精霊の定めを破った時に起こる悲劇を知っていて、その恐ろしさと悲しさをどの精霊よりも知っている。

そして、今は空の海を守る空の海の魔女。

……他の精霊よりも重い役目を課せられているリーちゃんはどんなに強い力を持っていても、レンちゃんを大事に思っていても、レンちゃんと『彼女』を助けたいと思っても、リーちゃんは空の海の魔女としての役目を全うしなければならなかった。

だからあの時、空の海の魔女としてレンちゃんごと『彼女』を消す決断をした時はとても辛かったと思う。

 「お前、すごい力を持った魔女なんだろ! 何でその力を使って、レンを助けようとしないんだ! 何でそんなに簡単に諦めるんだよ!」

トラネコくんにその言葉をぶつけられた時、レンちゃんと『彼女』に何も出来ない自分を悔しく思っただろうし、空の海の魔女としての役目をより辛く感じただろう。

ってことで、落ち込んでいるかなと思って、お酒を持ってきたんだけど……表向きはいつも通りだけど、お酒を飲むペースが早いから、やっぱり落ち込んでいたみたい。

「大丈夫?」とか「元気出して」とかは言わない。

だって、リーちゃんはそういう弱いところを見せないし、そういう弱音を吐くような素直さんでもないし、励ましの言葉をかけたら逆に強がっちゃう子だから、こうしてお酒に付き合うのが一番だ。

ということで、リーちゃんの落ち込みを確認したところで、あまり触れず、話題を変えてみる。

 「それにしても、まさかトラネコくんが精霊の力に目覚めるなんてね。その力を使って、レンちゃんを助けちゃうなんて、すごかったわね」

トラネコくんが精霊の力に目覚めたことにはわたしも驚いた。

レンちゃんと一緒にいることを選び、空の海にいたとはいえ、普通の人間(現在はネコの姿だけど)が精霊の力に目覚めるという話は今まで聞いたことがない。

 「レンちゃんを想う気持ち、最後まで諦めない気持ちが奇跡を起こした……そんなところかしら」

人間の最後まで諦めない気持ちや大切な人を想う気持ちは、時に人間よりも強大な力を持つ精霊を遙かに超え、困難を乗り越え、不可能を可能にし、奇跡を起こす。

例えば、救出不可能といわれたレンちゃんを、トラネコくんが助けたように。

そんな奇跡を起こしちゃう人間のそういうところをわたしは好きである。

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