11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
番外編1・頼もしい援軍
目の前には水、水、水。
水は命を潤してくれるもの、だが。
今、オレ、コウキ・クラヴァールの前にある水は潤しではなく、命を奪うものとして容赦なく襲いかかってきていた。
次元の挟間の森の中に突然、謎の水の球体が現れ、その中に空の海の人魚姫のレンちゃんが謎の水の球体に取り込まれた。
レンちゃんを助ける方法はなく、彼女ごと水の球体を消すしかないとなす術がないと空の海の魔女に言われた時、
「ボクは……ボクは絶対にレンを助けたい!」
突然、トラネコの体が光り始め、風のように早く駆け抜け、光の矢となって球体に入っていった。
すると、それまでこちらが近づかない限り攻撃をしてこなかった水の球体は無数の水の触手を伸ばし、オレたちに襲いかかってきた。
「水浴びする予定はなかったんだけどな……」
休む暇がない猛攻に、思わずそんなことを呟いてしまう。
「この水はしつこくて水浴びに向きませんね。生活水としても販売は出来なさそうです」
「お前、この水、売る気かよ……」
こんな時でも商人根性を見せるフィルに半分感心して、半分呆れる。
水の触手が襲いかかり、オレとフィルは分かれてかわす。その時に水の触手が腕をかすめたが、その傷はすぐに治った。
後方に下がらせているミコトの治癒術だ。
後ろにいるミコトに振り向き、大丈夫だと頷いてみせた。
「このままだと埒があきませんね」
「じゃあ、逃げるか?」
「コウキが逃げるのなら逃げますよ。……逃げる気はないのでしょう?」
さすが、長年の付き合いである親友である。オレの考えていることはお見通しのようだ。
「面倒見がいいコウキはおバカなトラネコくんも、レンちゃんも放っていけないと」
「ま、そんなところだな」
レンちゃんは優しくていい子だし、トラネコは口が悪くて、ワガママなところはあるが一応、いいところもある。
二人とも別の世界の精霊とネコ(正確にはネコにされた王子様)だが、そう短い付き合いではない。
トラネコが水の球体の中へ向かった今、レンちゃんを助けて戻ってくるのか……それはわからないが、わずかの可能性があるのなら、トラネコに掛けてみたい。
それに……もし、このまま二人が消えたら、ミコトが悲しむ。
ミコトを悲しませることはしたくない。
トラネコがレンちゃんを想うように、こんな自分にも誰かのことを考える気持ちがあったのか、と少し驚いた。
「そして、ミコトさんが悲しむのは嫌だと」
今、思っていることまでフィルに見透かされ、言い当てられたことにはさすがにどきっとした。
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