11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
26
「待て、トラネコ―――――――!」
トラネコさんを追って、コウキさんたちも部屋を出て行った。
「とっても元気ねえ、男の子たちは」
出て行ったトラネコさんとコウキさんたちを見て、ショーコさんが感心したように言う。
「それよりもトラネコさん、おっしゃっていましたわねえ」
にやりとサリサさんが笑う。
「そうね。はっきり言っちゃったわね」
カリナさんがふっと笑い、双子のミルさんとマルさんがうんうんとうなずく。
トラネコさんが言ったって、何だろう。わからなくて、そばにいたクウさんを見ると、クウさんもわかってないようで首を傾げていた。
「トラネコくん、レンちゃんが一番可愛いって言っていたわよ」
ショーコさんが教えてくれた。
さっきのことを思い出すと……確かにそう言っていた。
顔が熱くなって、再び胸の鼓動が高鳴り、周りにいるクウさんたちに聞こえるんじゃないかというほど大きくなる。
嬉しい。すごく嬉しい。
トラネコさんに可愛い、それも一番可愛いと言ってもらえて、こんなに幸せなことはない。
「……よかったね」
ミコトさんがほほ笑みながら、優しく頭を撫でてくれた。
「男性陣はトラネコ殿を追いかけていったようだな。私たちはどうしようか?」
ソフィアさんが聞く。
「女の子たちだけで変身大会兼ティータイムをする、というのはどうかしら?」
「おかしいっぱい食べたいなの!」
「おかしいっぱい食べたいです!」
ミルさんとマルさんが揃って、ショーコさんにお願いする。
「ちょうど、団長からいい紅茶の葉を分けてもらったのを持っているのですが……」
「わたしも、さっき台所をお借りして、プリンをいっぱい作りました」
キサラさんがきれいなリボンに包まれた袋を、クウさんが手に持っていたバスケットを見せた。
「まあ、それは楽しみね。じゃあ、みんなで行きましょうか」
ショーコさんたちが部屋を出ていく。
「レンちゃんも行きましょう?」
「あとから行きますから、先に行っていてください」
声をかけてくれたクウさんにそう断って、わたしは部屋の窓から空を見上げた。
あの空に『彼女』は消えていった。
貝殻がなくなって、人間の姿に変身中に服を自在に変えることが出来るようになって。
こんなことが出来るようになったのは『彼女』が貝殻を使って、出来るようにしてくれたのかもしれない。
確かなことは言えないが、わたしはそう思う。
「有り難う」
空を見上げ、『彼女』にお礼を言った。
あなたのおかげで、トラネコさんに可愛いって言ってもらえた。
あなたがくれたこの力、これからずっと大切にします。
澄み切った青空はまるで『彼女』が優しく見守ってくれるようで、わたしは感謝の気持ちをこめて、空へ歌を歌った。
「人魚姫の想い歌」おしまい
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