11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
23
「それよりも、言いたいことがあるんだ」
「……何でしょう?」
「あの時、いろいろあってちゃんと言えなかったが……レンが可愛くないって、ひどいことを言って悪かった」
トラネコさんは頭を下げて謝ってくれた。
「……いいんです。勝手なことをしたのはわたしですから。あの時のことはわたしが勝手なことをして、言われたことに勝手に傷ついて……だからいいです」
「よくない! ボクがレンを傷つけるようなことを言ったから、あんなことになったんだ。ボクが悪い」
「トラネコさんは悪くないです! わたしが……」
「いいや、ボクが悪かったんだ」
「いえ、わたしが……」
「ああ、もう! ボクが悪いって言っているんだ! というか、ボクが全面的に悪かった! とにかく悪かった! ごめんなさい!」
強い口調で言われて、さらに頭を深く下げられた。
「そ、そんなに謝らなくても…」
「ボクが悪いって言っているだから、ボクが悪いんだ。これも決定事項だ。……その、本当に悪かった。反省している」
本当に申し訳なさそうに言われて、これ以上否定するのはトラネコさんの気持ちを無駄にしてしまうと思い、わたしは頷いた。
「あの……わたしも謝りたいことがあるんです」
「謝りたいこと? まさか、あの時、可愛くなかったっていうことじゃ……」
「いえ、そうじゃなくて……実はトラネコさんがくれた貝殻なんですけど、なくしてしまったんです」
目が覚めた時にトラネコさんがとてもきれいな貝殻をくれた。
トラネコさんからもらえたことがとても嬉しくて、宝物にして大事にしようとその夜は抱いて眠った。
だけど今朝、目が覚めるとその貝殻はなくなってしまった。
あちこち探したけど、見つけることが出来なかった。
「せっかく、トラネコさんがくれたのに……なくして、ごめんなさい」
「何だ、そんなことか。なくしたんなら、仕方がない。気にするな」
「でも……」
「今度はもっと、いい貝殻を見つけてやる。だから、気にするな。いいな」
「……はい。それで貝殻がなくなってしまった代わりっていうか、その……」
「代わり? 何だ?」
「えっと、見てもらったほうが早いですね」
わたしは立ち上がると、目を閉じて念じた。
人魚から人間の姿に変わる魔法……とはちょっと違う、人間の姿のまま、服だけを変えた。
「……今日、気づいたらこんなことが出来るようになったんです」
今まで、こんなことは出来なかった。人間の姿に変身する時はいつも同じ服だった。
でも、今は念じると人間の姿のまま、服を変えられるようになった。
どうして、こんなことが出来るようになったのか、自分でもわからない。
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