11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
sideレン レンとトラネコ
『彼女』の出来事から五日後。
『彼女』が消えていったあと、わたしは倒れてしまった。そのまま眠り続けて、昨日、目が覚めた。
『彼女』に取り込まれたことと、力を使ったこと……彼女を癒す歌を歌ったことが原因だろうって、空の海の魔女さんが言っていた。
わたしが眠っている間、皆さんはショーコさんのお店に泊まって、交代で様子を見てくれたらしい。
起きて、そのことを知って、わたしは皆さんに心配をかけたことを謝りに回った。
皆さんはいいよって言ってくれたけど、やっぱり申し訳なかった。
そして……
「……レン、入っていいか」
声はトラネコさんだった。
「はい、どうぞ」
返事をすると、トラネコさんが部屋に入ってきた。
「レン、具合はどうだ?」
「はい、もう大丈夫です。トラネコさんのほうこそ……」
トラネコさんもあれから、倒れてしまったらしい。わたしより早く目が覚めて、わたしが起きるまで、そばにいてくれた。
目が覚めて、最初にトラネコさんの顔を見て、嬉しくて……自分もトラネコさんも無事だったことに安心した。
トラネコさんには変化が起こっていた。
体の色が黄色から少しオレンジ色になり、体の青の模様の一部が黒になった。
ネコの姿で精霊の力が溢れる空の海にいたことで、今回のことで精霊の力に目覚めたのだろうと空の海の魔女さんが言った。
元々、人間のトラネコさんが精霊の力に目覚めたということは、体が精霊化して元の姿に戻ることは出来ないかもしれない可能性もある、とも。
「ボクはこの通り、元気だ」
「でも、元の姿に戻れなくなってしまったら、トラネコさんは……」
「それでもいい。……言っただろう。ボクはレンと一緒にいたいって。だから、こんなの全然、問題ない」
トラネコさんがわたしと一緒にいてくれることを望んでくれることは嬉しい。
でも、トラネコさんの体が精霊化したことで、元の姿に……人間に戻れなくなってしまったら、いつか元の世界へ帰りたいと思っても、帰ることが出来なくなってしまう。
それに体が精霊化したことで、体に悪影響が出るかもしれない。そう思うと心配でたまらなくなる。
「ボクがいいって言っているんだ。気にするな。それとも……ボクと一緒にいたくないのか?」
「そ、そんなことないです! わたしはトラネコさんとずっと一緒にいたいです!」
「だったら、気にするな。これは決定事項だ。いいな」
「……はい。でも具合が悪くなったら、すぐに言ってくださいね。トラネコさんに何かあったら、わたし……」
「だから、大丈夫だって。レンは心配性だな」
呆れたようにトラネコさんは言うけど、やっぱり心配なことは心配なのだ。
もっと、自分のことを大事にしてほしいと思う。
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