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11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
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あなたの中にいて、あなたの気持ちを感じた。

想いが報われなくて、あなたはどんなに辛かったか。どんなに悲しかったか。

だけど、もう苦しまないで。

好きな人の幸せを願ったあなたが、世界に害になる存在として消えてほしくない。

どうか、この歌であなたの悲しみが少しでも安らぎますように……

その思いをこめて、わたしは歌った。

 (どうして?)

『彼女』が聞く。

 (どうして、あなたはわたしなんかのためにそこまでするの? わたしはあなたを取り込もうとした。あなたの大切な人や友だちを傷つけた。そんなわたしをあなたはどうして……)

それはあなたがわたしと同じ、好きな人を想っていた人だから。

わたしにも好きな人がいる。

あの人のことを考えると楽しくて幸せで、あの人と一緒にいると胸がドキドキして……でも、時々、辛くて、苦しくて。

だから、あなたがどれだけ苦しかったか、あなたの気持ちがわかる。

そしてね、わたしはあなたがすごいと思うの。

もし、好きな人に好きな人がいたら……わたしはきっと、耐えらない。

きっといっぱい泣いて、悲しんで……好きな人が愛する人と幸せになってくれればいい、なんて願うことなんて出来ない。

自分の気持ちより、好きな人の幸せを願えるあなたはとても優しくて、とてもすごいと思う。

だから、わたしはあなたを苦しんでいるまま、消したくない。

あなたの悲しみが少しでも安らぐようにしてあげたい。

 (……あなたは……とても優しいのね)

彼女が言った。

 (わたしはあの人に好きな人がいると知った時、好きな人と幸せになってほしいとそう心から願った。だけど、心のどこかでは想いが報われないことが悲しかった。あの人を想えば想うほど、悲しみの気持ちも強くなってしまって……その悲しみの気持ちが『わたし』になってしまった)

声の中からは悲しみの気持ちが聞こえた。

水の球体になってしまうほどの『彼女』の悲しみを思うと胸が痛い。

(でも、あなたと話して、あなたの想いに触れて……あなたのおかげであの人を好きになって幸せだったことを思い出した)

『彼女』は穏やかに言った。

(辛かったけど、わたしはあの人を好きになって、確かに幸せだった。長い間、忘れてしまっていたけど……あの人を想っていたあの幸せな気持ちを思い出すことが出来て、よかった)

水の触手が消え、水の球体の形がゆっくりと崩れてゆく。その崩れていく様は球体につまった『彼女』の悲しみが解き放たれていくように見えた。

 (有り難う)

優しい声だった。

それが『彼女』の最後の声だった。

水は光となって、次元の挟間の空へと消えてゆく。

その光をわたしは最後まで見ていた。

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