11周年記念物語「人魚姫の想い歌」 19 気がつくと、次元の挟間の森の中だった。 「レンちゃん……!」 わたしとトラネコさんたちの周りにはコウキさんたち、クウさんたち、ショーコさんや精霊さんたち……皆さんがいた。 「二人とも、おかえり」 コウキさんが温かく迎えてくれる。 「……よかった……本当によかったです」 クウさんは笑っていたけど、声が震えていた。すごく心配をかけてしまったようだ。 「二人とも無事、戻ってきたことだし、あとは……」 ショーコさんが上を見上げる。 上空には水の球体が浮かんでいた。どうやら、わたしはあの中にいたらしい。 「レンちゃんが戻ってきたら、すっかり大人しくなりましたわね」 薄紫色を特徴的に結んだ女性、サリサさんが槍を地面に刺して、水の球体を見上げる。 その横に金髪の長身の男性、ユイオスさんがやってきて、サリサさんを守るように立った。 わたしがお店にいた時にいなかったお二人がどうして……他にもお店にいなかった人や精霊さんたちの姿もある。 どうして彼らがここにいるのか気になったが、今は聞ける雰囲気ではなかった。 「また攻撃をしかけてくるかもしれません。大人しくなった今のうちに、空の海の魔女にあれを消してしまいましょう」 あれとは、あの水の球体のことなのだろう。けど、あれは…… 「待ってください! 『彼女』を消さないでください!」 わたしが皆さんにそうお願いすると、皆さんは驚いた顔した。 「『彼女』って……あの水の球体のことか?」 戸惑った様子でたずねるコウキさんにわたしは頷いた。 「はい……『彼女』はわたしと同じなんです」 「……レン、気づいたのかい」 空の海の魔女さんは『彼女』が何者なのかわかっているようだ。 「あの水の球体……『彼女』はわたしと同じ、人魚さんです」 皆さんはさらに驚かれた。 「レンちゃん、どういうことなんですか?」 「……『彼女』は想いが報われなかった人魚さんなんです」 あの水の球体、『彼女』の中にいたことで、わたしは『彼女』の想いに触れて、『彼女』が何者かを知った。 『彼女』には好きな人がいた。 けど、その人には別の好きな人がいた。 その人が自分を好きになってくれなくてもいい。好きだと想うこの気持ちだけでいい。 そう思った『彼女』は自分の想いを告げることはしなかった。 好きな人が愛する人と幸せになってくれればいい、とその幸せを願った。 心からそう願っていた。だけど…… 心の奥では想いが報われなかったことが悲しかった、苦しかった。 その苦しい気持ちが、『彼女』になってしまったのだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |