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「なんだ、これ……」


 視線は鏡に向けたままで、俺は自分の右頬に手を伸ばした。

 指先にはなんの違和感もない。だが、そこには見覚えのない黒い痣ができていた。

 位置にすると、ちょうど頬骨のあたり。隈ができるには下過ぎるし、かといってこんなところに痣ができる覚えがない。そもそも、触っても痛くないのだから、怪我ではないようだ。


「……?」


 鏡に顔を近付けてよく見てみるが、よく分からない。ただ黒い、三日月形の痣があるだけだった。


「なんか、気持ちわる」


 身に覚えがない、ということはもちろんだか、見たことがない黒い痣に顔をしかめた。

 とりあえず隠そうと思い、絆創膏を持ち出してきて痣の上に貼りつけた。少し透けるが、痣はすっぽり隠れた。


「……飯食お」


 気を取り直して台所に向かう。パンと牛乳を適当に出して食べる。

 ニュースでも見ようかと思ったが、気分じゃないのでやめた。大体、最近は暗いニュースしかやってない。

 黙々と、パンを押し込んで牛乳を流し込む。

 静かすぎる静かな朝が過ぎていった。

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