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「でもま、今日はふられちゃったみたいね」
約束が反故になってしまったことを例えるならそういうことらしいが、その言い方は真紀にとって快くなかった。
仕方ないということも、卓哉が悪くないということも分かっているのに、「ふられた」と聞くと胸に刺さるものがある。
「そういうこと、かな?」
それでもそんな感情を表に出すのが嫌で曖昧に笑うと、佳奈はにやっと笑って顔を近付けてきた。
弧を描く口元がやたらと色っぽい。男には困ったことがない、と言っていたのを思い出した。
「じゃあさ、ちょっと私と付き合わない?」
「は?」
「ふられた」のあとは「付き合う」、しかも女同士で?
男には不自由しないと言っていたが、まさかそんな趣味まであったのかと目を白黒させていると、勘違いに気付いた佳奈が真紀の頭を軽く叩いた。
「こら、なんつー考えしてんだ」
「え、違うの」
真顔で聞くと今度は苦笑された。呆れた佳奈はため息をついて真紀の頭をわしゃわしゃと撫で回した。
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