・56 「……何」 「やっぱ絵うまいなぁと思って。どうやったらそんなにうまく描けるの?」 真剣な眼差しを送ると、洋一は少し驚いたように目を丸くした。それから真紀から顔を反らす。 「別に、うまくはないけど」 「でも私よりちゃんと描けてるじゃん。なんかコツ教えてよ」 引き下がらない真紀に、洋一は、仕方ないな、と呟いて話しはじめた。 「まず、ものをよく見る。これが基本」 「よく見てるつもりなんだけど」 「見方が悪いんだ。対象の全体を掴む。バランスを見るんだ」 「バランス?」 「そう。お前、端から順に描くだろ」 言われてみればそうだ。頭から描きはじめる。 「全体のバランスをつかんで、点から線を生み出すのが一番うまくいく方法だな。まぁ俺流だけど」 「へぇー」 洋一の説明に思わず感嘆してしまう。 「こらお前ら、喋ってばっかいないで手も動かせよー」 「すみません」 ふいに先生の声が飛んできて、真紀は頭を下げた。洋一も黙る。 改めてスケッチブックに向き直り、先程言われたことを思い返してみる。 全体、点、線。バランスよく描くには、観察が最重要項目。 [*back][next#] |