・3 「ところで、何かあったの?」 本に栞を挟んで閉じると、卓哉は向かいの席に座った。ちょっと言いにくそうな顔をしてから、頭を下げる。 「ごめん先輩、今日急にバイト入っちゃって……」 今日の放課後は、二人で映画を観に行く予定になっていた。 お叱りを受ける覚悟で来たのだろう、卓哉は頭を下げたまま謝罪の言葉を述べる。 「そうなんだ。別に大丈夫だよ、また今度行こう?」 「……怒ってない?」 恐る恐る顔を上げる卓哉に笑顔を返す。 「全然」 「本当に?」 「うん」 すると、卓哉は大きなため息をついて背もたれに体を預けた。そんな卓哉を見て、思わず笑みがこぼれる。 「そんなに心配だったの?」 「そりゃそうっすよ。俺先輩に嫌われないように必死なんすから」 「あ、敬語」 「あ」 真紀の指摘に、卓哉は口を押さえた。付き合いはじめて半年以上経つというに、気を抜くと他人行儀になってしまう。呼び方も、いまだに「先輩」が付く。 ちなみにこれは真紀が強要しているわけではない。卓哉自身が敬語をやめようと言い出したのだが、なかなか身につかない。 [*back][next#] |