・29
「長谷川ってこういうの苦手なんだな。意外」
「えっ」
唐突に話し掛けられて、真紀はびくっとする。洋一はそんなこと気にせず、また手も止めずに続ける。
「細かい作業とか得意そう」
自分は彼にそう見られていたのか、と思うと嬉しいような恥ずかしいような気持ちでいっぱいになった。
動揺を隠して真紀は言う。
「裁縫とかはできるけど、美術は苦手なの」
「じゃなんで美術選んだの?」
もっともな疑問だ。入学する時点でどちらにするか決めなくてはいけなかったにせよ、中学でも苦手だった美術を選んだのはおかしいと人は思うだろう。
「美術好きだから」
「苦手なのに?」
「苦手だけど。別に上手じゃなくても、絵を描いたりするの好きだから美術にしたの」
好きこそ物の上手なれ、という言葉がある。でもその逆はあまり聞かない。だから、苦手でも物を好きになることがあってもいいと思う。
「へぇ。変わってんな」
「そうかな? ……そうかも」
言われて、少し考えて、頷いて。そうしたらまた洋一が笑った。いつもとは違う、声を出した笑いだった。
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