・28
うまくいかないな。
スケッチブックを前に、真紀は首を傾げた。
「ここがこれなんだから、ここはもうちょっと急? あーでもそうするとこっちと繋がんない」
「何ぶつぶつ言ってんの?」
無意識に声に出していたので、急に声をかけられて驚く。その相手にも驚いたのだが。
「あ、いや、ちょっと構図がうまく行かなくて……」
「ふぅん……?」
呟いた洋一が真紀の手元を覗き込んできた。予想外の近距離に、思わず緊張してしまう。
「ここ」
「え?」
「ここ、こうしたら良くなると思う」
すっと引かれた新しい線。自分の線を無視して、洋一の線で全体を見ると、確かにバランスがよくなっていた。
「あ、ありがと」
「どういたしまして」
また、あの笑顔。
真紀は顔が赤くなったのを気付かれないようにスケッチブックに視線を落とした。
週に一度の芸術の時間。美術か音楽の選択で、真紀は美術を選んでいる。光と嵐は音楽を選択しているので、いつもの四人のうち真紀と洋一が一緒に授業を受けていた。
今は静物画の授業。先生が適当に置いたオブジェの数々をスケッチブックに模写している。
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