・21
なんとなく見送っていると、助けてくれた男子が前の席に座った。
お礼を言っていないことに気付いて声をかける。
「あ、あの」
「……何?」
切れ長の目が振り返る。でも、怖くなかった。
「ありがと、えと……」
そういえば名前を知らない。そう思い言葉に詰まると、男子生徒はふっと笑った。
つい見とれていると、男子が口を開く。
「芳賀」
「え?」
「芳賀洋一」
「あ、」
名前。
「ありがと、芳賀くん」
「どういたしまして」
言って、またふっと笑う。目が細められて猫のようだな、と思っていると、また前を向いてしまった。
芳賀、洋一くん。
背中を見つめながら心の中で復唱する。朝日の差し込んだ教室で、その背中が輝いているように見えた。
「うちのクラスってかっこいい人多いと思わない?」
昼休み。
友達作りの遅れた真紀がお昼をどうしようか悩んでいると、また嵐が話しかけてきた。一緒に食べようと誘われ困っていると、洋一が嵐の首根っこを掴んで離れていった。
呆然と見送る背中に声をかけてきてくれた女子生徒のグループに入れてもらい、現在に至る。
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