6
「あれ? アユカちゃん?」
嫌な状況は重なるものらしい。
不意に聞こえた声に、歩香は顔をしかめた。歩くスピードを速める。
「ちょっと待ってよ」
「待たない」
案の定追い掛けてきた雪都を振り払うように走るが、雪都は難なくついてくる。
なんとか巻こうと必死になっていると、少し遠くに来てしまった。一番近くのバス停まで歩こうと思っていたのに。
「アユカちゃん足速いねぇー」
「…………」
あぁもう面倒くさい。
歩香は立ち止まって雪都を振り返った。
「いい加減にしてくれませんか。迷惑なんですけど」
思いっきり睨みつけて言ってやる。これだけ本気を見せ付ければ、雪都だって諦めると思った。
だが、
「雨、濡れちゃうよ」
歩香の言葉を聞いていなかったのか、雪都は笑顔で、自分の差していた傘の中に歩香を入れた。
一人でムキになっているのが恥ずかしくて、更にムキになる。女にだって意地がある。
「だから、そういうのもやめてってば!」
叫びながら雪都を振り払うように腕を振ると、傘に手が当たった。空のように青い傘が、雪都の手から離れて宙を舞った。
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