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 一進一退、二人の恋模様。





「楓先輩!」


 後ろからの声に振り返ると、小走りで近寄ってくる女子生徒が目に入った。
 その姿に一瞬で胸が高鳴る。だが僕は、常のポーカーフェイスでそれを隠した。


「遥じゃん。どした?」


 加藤遥は、目の前まで来ると少し乱れた息を整えながら笑顔で僕を見上げた。


「先輩今お帰りですか?」


 僕の言葉が聞こえていなかったのか、遥は自分で話をはじめた。
 オレンジ色の光に照らされた笑顔が僕に向けられる。遥はいつも無邪気に笑うから、その笑顔は夕日なんかよりもっと眩しい。


「そうだけど」


 大体こんな時間に鞄持って校舎から出て来るんだから帰る以外の何物でもないだろう、と思いながらも答えると、遥はさっきより大分落ち着いた呼吸で言った。


「じゃ一緒帰りましょ」


 さも当然というように遥は言う。
 そしてその当然が、僕にとってはこの上なく嬉しいものであることを遥は知らない。


「別にいいけど」


 喜びを隠すように曖昧な返事をして歩きだす僕の隣を遥がちょこちょことくっついて歩く。
 そんな距離感が、もどかしくも好きなことも、もちろん秘密だ。

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あきゅろす。
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