19
どうしたんだろう、何かあったのかな、かわいそう、放っておきなよ、大丈夫かな。
色んな声が聞こえる。でも、そんなのどうだっていい。
私が聞きたいのは、
「……遥っ!」
「楓、せんぱ……」
その人だけの声。
楓先輩が戻ってきてくれたのが信じられなかったけど嬉しくて立ち上がったら、すぐそばまで来た先輩がまた顔色を変えた。
「お前……、座ってろって言っただろ!」
びっくりして縮こまる。
戻ってきてくれたけど、やっぱり怒ってる。
「ご、ごめんなさい……」
「う、あ、いや……とにかく座って」
促されてベンチに戻る。先輩はその間に、持ってきたビニール袋から何個かの箱を取り出した。消毒液に、絆創膏。
「これ、どうしたんですか?」
さっきまで先輩は手ぶらだったはずなのに。
「買ってきた」
「えっ」
「ほら、下駄脱いで」
「あ、大丈夫です、自分で……」
「いいから!」
また怒鳴られておとなしく下駄を脱いだ。
なんだかさっきから先輩が怖い。
でも、先輩がいないときの怖さより全然いい。
そう思った。
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