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キセキの秋桜
62


「ただいま」

「ただいま戻りました」

「……ただいま」

「お帰りなさい」

「アーデルに頼まれてた買い物してきたよ」




あれから暫くウロウロとしていた三人だったが、空が少し暗くなって来た為、アーデルハイトに頼まれていた夕食の買い物を済ませて並盛旅館へ帰って来た。アーデルハイトも有り難う、とスーパーの袋を受け取り、広間の方へと夕食を作りに行ってしまった。

特に気にする事もなく、三人は靴を脱ぎ炎真とユニは広間の方へ、空はショルダーバッグを置きに使わせてもらっている部屋へとそれぞれ向かった。

四足の靴があった事に全く気付かずに。




「……。」

「お帰りなさい空さん」

「ム。遅かったね」

「息抜きになったか? コラ」

「俺様暇だったんだぞ!」

「ふん。どうでもいい」




部屋の襖を開ければ、完全に最強の赤ん坊と謳われるアルコバレーノしかいないそこから、それぞれの言葉が返って来る。無表情ではあるものの、空は小さく頷き返した。

アルコバレーノ達はそれぞれの反応を見せ、空に近付く。




「……。」




アルコバレーノ達を何人か抱えて空は広間へと向かった。

超直感が嫌な意味で働いていると気が付いていながら。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




(何で此処に居る)




「ちゃおっす、ソラ」

「お、お邪魔してます」

「さっさと帰れ」

「そう言うなよ、ソラ」

「そうですよ。ソラ殿」




アルコバレーノ達を抱き抱えて広間迄来ると、空は無表情ながらにあからさまにイヤそうな雰囲気を出した。リボーン、綱吉、ディーノ、バジルと言うよく知った人物達が勢揃いしていたからだ。

抱き抱えていたアルコバレーノ達を全員下ろし、知り合い達を睨み付ける。然し其れは直ぐに逸らされた。

理由はただ一つ。綱吉の隣にユニが居たから。

舌打ちしたい気持ちを押さえ、その代わり内心で盛大に舌打ちをした。

リボーンと綱吉は落ち込み気味に、ディーノとバジルはやっぱりそうか……と目を伏せた。綱吉(正確には綱吉だけ)達が此処に居る理由は、空に聞きたい事があるからだ。

あまり頭の良くない綱吉ではあるが、双子特有のアレで、不思議な体験をしていたからだった。綱吉からすると一人で来たかったが、そこは某事情がある為、恐ろしくて言えるわけがない。




「……。」

「(やっぱり、オレ達には心を開いてくれないのかな……)」

「取り敢えず夕食を食べながらでも話しましょう?」

「「「「おう」」」」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「(モグモグ)」

「(気まずい……)」

「そう言えば沢田さん、空さんに聞きたい事があると言っていませんでしたか?」

「えっ!? あ、うん……」

「……。」




あれから楽しく食事をしながら、皆は会話していた。空は変わらず会話には参加せず黙々と食べていた。

丁寧に、よく噛んで、咀嚼して。




「……ご馳走様、でした」

「ご馳走様でした。……あ、あのさ、空!」

「……何」

「あの、えっと、オレさ……最近変な夢、見たんだけど……」

「……だから、何」




空が食べ終わるのと同じ位のタイミングで、綱吉が声を掛けた。然し、空は冷めた瞳を向けて来るだけで、もう話を聞くつもりはない様だった。

其れでも綱吉は、珍しく強引に話を続けた。




「夢の中で黒髪の男の子≠ェ出て来てさ、」

「……。
(だったら、何だっていうんだ)」

「オレと空とその男の子が出て来て、小学生位だったかな……何か約束をした、気がするんだ……」

「……だったら何だって言ってんだよ。ただ見てる事しか出来ねぇ奴が、今更私に関わるな」

「……。」




綱吉が告げた事は、空が見た夢と内容が酷似していた。空本人も驚くが、表情は一瞬にしてもどしてしまう。

綱吉もお得意の超直感で妹の表情の変化に気が付いたものの、今の空にそんな事を伝えた所で、心を開いてくれるとは思ってはいない。其れでも綱吉は伝えなくてはいけないと思ったのだ。

少しでも自分達のよく知る笑顔が可愛らしい空に戻って欲しくて、また元の双子の兄妹に戻りたくて。




「私の事信じてもないクセに、兄面すんな」

「ちょ、空!」




もう話す事はないと言った様に、自分の使っていた食器をシンク迄持って行くと、そのまま使わせてもらっている部屋迄戻って行ってしまった。少し不機嫌そうに。




「ツナ君……」

「オレ、思ってたよりも嫌われてたんだな……」

「そうか? ツナがよく分からない話した時、ソラのヤツ少し表情変えてたゾ」

「「「えっ?」」」

「多分空さん、沢田さんの事が嫌いなのではなく迷っている、戸惑っていると言った方が正しいのかもしれません」




空が広間から去った後、その場に残っていた人達だけで会話をしていた。綱吉は目に見えて落ち込んでいる。

だが、リボーンとユニの二人は空のほんの一瞬の表情の変化を見逃さなかった。本当によく見ていないと分からない程度の変化を。

ディーノ、バジル、炎真の三人は当然驚いた。綱吉は驚く所か何と無くではあるが、気付いていた。




「けど……」

「ごちゃごちゃうるせぇゾ」

「あだっ!?」

「んな事言ってねぇで、空の無実を証明して決着つけろ」

「「何の事(だ/ですか)?」」




その場に居た綱吉達は、ディーノとバジルに空の身に今起こっている事を全て話したのだった。





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