キセキの秋桜
16
「じゃあオレ達こっちだから」
「……。」
「またね、ツナ君、空ちゃん」
「また明日」
炎真とは帰る道が違う為、それぞれ違う方へ歩いて行く。綱吉と空は並んで歩く
「……。」
「……。」
(き、気まずい……物凄く気まずい……)
今迄とは違い、楽しく雑談をしながら家路についていたが空の状態が状態なだけに、話し掛けようにも話し掛けずらかった。
「(何時も以上に酷い怪我。跡にならないといいけど……)」
「……。」
綱吉は並んで歩く妹の姿に泣きそうになっていた。まだ治りきっていない痛々しい傷、雲雀につけられた打撲痕、辛そうに歩く顔。
本当に見ていられない程の状態に耐え予(かね)て声を掛けた。
「空」
「何」
「まだ、傷痛む?」
「……。」
「歩くの辛い?」
「……。」
懸命に話し掛ける綱吉だが、空は答えようとしない。それでも諦めずに話し掛け続ける。
「痛いなら、無理しなくていい」
「……。」
「歩くの辛いなら、頼りないけどオレがおんぶするから」
「……。」
「だから、その……一人で抱え込まないで欲しいんだ」
綱吉は必死に訴え続けた。妹の為に何か助けになりたいという気持ちと、これ以上無理して辛そうな表情を見ていたくないという気持ちの表れなのかもしれない。
例え直ぐ心に届かなくても、何時か届いて欲しい。綱吉なりの優しさなのかもしれない。
「はっ、」
「空……?」
「よくそんな言葉が出てくるね。本当は心配なんてしてないくせに」
「そんな事……」
「お兄ちゃんだって、私の事嘘吐きだって思ってるんでしょ?」
「オレは……」
綱吉は思わず吃ってしまった。思ってない。オレは空を信じてるよ、そう言いたかった筈なのに言えなかった。
光のない空の目を真っ直ぐ見てしまうと、とてもじゃないが言えなかった。空自身に信じてもらえていないからだ。
「お兄ちゃんだって、信じてないじゃない」
「オレは……本当に……」
「煩い」
「……。」
あっという間に沢田家に到着していた様で、二人は特に会話も無く家の中に入った。
「ただいまー」
「ただいま」
「お帰りなさい、ツナ、ソラ」
「お帰りなさい」
ドアから顔を出した奈々とビアンキ。二人が靴を脱ごうとした時、ストップがかかる。
「ちょっと待って」
「母さん?」
「如何したの?」
「空ちゃん、貴女は自分がした事を反省する迄………」
──家には一切入れません。
「な、何言ってんだよ母さん!」
「ツナ、ママンは本気よ」
「空ちゃん、人を傷付けたらいけないって教えたでしょ?」
「……。」
「何でそんな事したの?」
奈々は空を問い詰め始めた。ビアンキも何か言いたそうにするが、黙って見守っている。
綱吉に至っては、言いたいが言えずにいた。空は何も答えようとはしない。
「ねぇ、空ちゃん如何して?」
「……。」
「母さん!」
「……。」
ガチャ
バタン
「空!」
「ツー君、放っておきなさい」
「でも……」
「ツナ」
綱吉もそれ以上は何も言えなかったし、出来なかった。そこ迄する必要があるのか、如何して自分の娘を信じてあげないのか。
綱吉は本当に自分は情けないし、奈々もそんなことを言うような人ではなかった筈なのに、と思った。
「……。」
「早く着替えて来てね、ご飯出来てるわよ」
「……。」
綱吉は何も言わず靴を脱ぎ、自分の部屋へ行く。奈々とビアンキもリビングへと戻って行った。
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