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2
 一階に降りたところで、誰かの視線を感じた。
「誰だよ」
 しんと静まり返った廊下に、軽くドスを聞かせた声を響かせる。
 曲がり角から、男が姿を現した。
「澤村――か」
「よお……珍しいな」
「人のこと言えんのかテメエ」
 警戒を緩めずに返したら、奴は何がおかしいのか小さく喉を鳴らした。
「アンタ、まだ白河とつるんでんの?」
「何が」
 何が言いたい――そう続くことなく、澤村が俺の懐に潜り込んできた。
 咄嗟に身を離すと、奴は俺の携帯を弄びながら笑っていやがった。
「あっ、てめ」
「油断してっと、いつの間にかスられちまうぜ?」
「はあ……?」
「ただの興味本位でそばに置いてんなら、やめとけ。今はそうでなくても、いずれそれなりの覚悟が必要になる」
 長めの前髪から、鋭い目が俺を射抜いた。
 こいつ――ただもんじゃねえな……。
 ピリッとした空気をまといながら、それを振り払うように一歩前に出る。
 すると澤村が俺の携帯電話を放り投げやがった。
「投げんなよ!」
 反射的に携帯を捕まえる。
 澤村はもと来た方に向き直り、あの日と同じ嫌な笑みで去っていった。
 スられるって――盗まれるってことだよな。
 それを考えてみてもイマイチ考えがまとまらない。
「つーか俺って」
 なんか盗まれるようなもん、持ってるのか……?

   ◇ ◇ ◇

 陽光に入る前、俺は今よりも荒れていた。
 何かが物足りなくて、刺激が欲しくて、ただ喧嘩を繰り返していた。
 そんな日々を過ごすうちに、いつの間にか俺の周りには敵しかいなくなっていた。
 親でさえこんな問題児を、山の中にある学園に送り込んだくらいだ。ようするに邪魔だったんだ。



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