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5
「はい。一年の間でも、有名ですから」
「あー……やっぱ喧嘩か」
 確かにあの外見で俺より強いとか詐欺だよな。
 アイツの喧嘩は容赦がない。ヘラヘラしてるようで頭の回転は早いし、軽い身の動きで的確に急所を付いてくる。しかも最悪なことに加減を知らないときた。
「あ、いやそれもですけど――」
「? 他にあったか?」
「ファンがいっぱいいます」
 ――男の、ファン?
「そっち系に人気と言いますか……」
「ま、待て待て、ちょい待て。あいつは知ってんのか、それ」
「告白なら、何回もされてるはずですけど……」
 知らなかった……。いや、知ってたら知ってたで複雑だろうけど。
「可愛いってよく言われてます」
「……可愛いか、あれ」
 寧ろ一年には怖いだろ。“オレンジ頭の死神”は他校でも有名だぞ。
「――柳先輩」
 不意に、白河が声を低くして俺を呼んだ。咄嗟に隣を見たら潤んだ眼で見つめられて、引きそうになるのを堪える。
「……柳先輩が、ノーマルなのは知ってます」
「あ、ああ……悪ぃな」
「謝らないでください。だから、その……友達も、やめましょう」
「え」
 意外な言葉につい聞き返す。別に俺は、ダチか知り合いかなんて正直どっちでも良いけど。
「好きな人と、ずっと友達でいるのは……ツラいです」
 無理して笑う白河が、おずおずと俺の手に触れる。一瞬ビクついたら、白河はそれを逃がさないように握った。
「だから。貴方のこと、諦めますから――最後に、キス……してください」
「…………」
 俺は、こんな時に返す言葉を知らない。木瀬なら知ってるんだろうか。
 断る方法も解らなかった。もしここで断ったとして――そしたらさっき木瀬が言ってたみたいに、それこそ期待させることになるんだろうか。
「ま、まあ……それくらいなら」
「! あ、ありがとうございます!」
 断れると思っていたのか、白河はパッと華やかに笑って見せた。
 小さいし可愛いし、黙ってみてたらマジで女に見えてきて、今更ながら緊張する。
「目、瞑ってろ」
「はい」
 言われたままに薄く目を閉じた白河。細っこい肩に手を置いたら、ピクリと反応するのが解って笑いそうになる。俺みたいに緊張してんのかな、コイツも。
「あ……」
 時間にしたら数秒なんだろうけど、俺には何時間にも思えた。



あきゅろす。
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