[携帯モード] [URL送信]
4
 恋人なんて図々しいこと言うつもりはない。ただ……柳にだけは、嫌われたくないから。

   ◆ ◆ ◆

「……なー、柳」
「んだよ」
 最後のサンドイッチを食べきり、財布から小銭を取り出しながら木瀬が不思議そうに見上げてくる。目の前の席だから、体だけ此方を向けて俺の机に顎を乗せた。
「白河、今日は来なかったなー。何かあったん?」
「……」
「おーい、柳ー?」
 聞いてるー? と目の前で手を振られて、ハッとした。ああ、とか適当に返事して、コロッケパンをかじる。
(……上目が)
 丁度見上げられてる位置だからか、木瀬の上目が直視できない。あの時を、思い出した。
(冷静に考えたら……何て事したんだよ、俺)
 チラリ、視線を移すと、ちょっとだけ起き上がった木瀬の胸元が、バッチリ見えて。
「馬鹿、起きるんじゃねぇ!」
「へっ!?」
 ――ガンッ!!
「い、ってぇ……」
 あ……。やば。
 気がつけば俺は、思いっきりオレンジ頭を机に押さえ付けていた。抵抗もなく無言の木瀬が逆に恐ろしい。
 たじろいだ俺が指先を動かせば、綺麗に染められてる割りに傷みのない髪先が絡み付いてきた。
「……。柳」
「わ、りぃ……つい。許せ」
「……。デコ痛い」
「だ、大丈夫かよ?」
 木瀬の顎を持って頭を上げると、キョトンと目を見開いた木瀬が固まって、軽く後ろに下がった。
「? んだよ」
「近い、近い」
「はぁ? 何言ってんだお前……見せろって赤くなってんぞ」
「いい、いらない」
 ムッ、何だその拒絶。ただ打った場所見せるだけだろ!
「ごちゃごちゃウルセェんだよ!」
「ちょっ」
 咄嗟に無理矢理引き寄せた瞬間――強烈な拳がお見舞いされ視界がぶれた。
「っ!」
「あー、悪ぃ、つい」
 こめかみを殴られよろけた俺を見て、ケロリと笑った木瀬が席を離れた。相変わらず手加減を知らない奴め……。
 ……。つーか何に焦ってんだよ俺。俺こそ冷静になれ。可笑しいだろ男の胸見て狼狽えるなんざ!
「柳? どした?」
 隣を通ったクラスの奴――野崎が、頭を抱える俺に気づいて声を掛ける。
「ん、ちょい来い」
「なに――ぎゃあああ!!」
「うん俺やっぱ正常」
 野崎の服ひんむいて胸見ても何も感じない。やっぱ気の迷いだあんなもの。
「俺は良くねぇんだけど……」
 野崎の独り言は面倒なので無視した。

   ◆ ◆ ◆



あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!